日本は四方が海に囲まれ水が豊富な国です。また、水道の水を飲料水として安心して飲める数少ない国ともいわれています。
その一方で、水質汚染の話も聞くことがあります。環境保全に対する関心が高まるなか、毎日の生活になくてはならない水の問題は見逃せないものと考えられます。水質汚染の予防に対して、個人で何ができるでしょうか。原因と現状について解説します。
水質汚染の主な原因とは
河川や河川敷にごみを投棄することや汚水を流すことが、水質の悪化につながることは直感的にもわかります。ここでは水質汚染とは何かについて、その定義と原因をご紹介します。
水質汚染とは
自然界の川や湖・沼、あるいは海では水が多少汚れても、自然循環の過程で汚水が薄まったり、生物やバクテリアなどによって浄化されたりすることにより、水質は元に戻るようにできています。
ところが、自然の持つ水質浄化力を上回る量の汚染物質が入り込むと水質が悪化することがあります。こうした汚染を水質汚染と呼びます。水質汚染の発生源は、生活排水、産業排水、ノンポイント汚染源の3種類に大別できます。
生活排水
水質汚染の最大の原因は、生活排水です。生活排水は、各家庭やし尿処理場、下水道終末処理場などから排出され、河川・湖沼や海に流れ込みます。
生活排水による水質汚染は、対策が難しいことが知られています。
自治体や国などが水質を浄化する施設を作ること、住民が排出する生活排水を規制することが対策となりますが、日本で1990年に改正された水質汚濁防止法では、双方とも努力義務とされており罰則による強制力はありません(※)。そのため、対策の決定打になりにくいと考えられます。
産業排水
工場や事業所などから排出されるのが産業排水であり、水質汚染の原因になります。
かつて日本では、阿賀野川のイタイイタイ病や水俣湾の水俣病などの公害問題が発生し、水質汚染が人の健康を害する事態が発生していました。
しかし、原因物質の排出を規制するのに、産業排水の場合は工場などの事業所からの排水の規制を行うとコントロールできることが知られています。
実際に、1958年の旧水質二法、1970年の水質汚濁防止法成立によって、工場などに対する規制が強化され排水処理対策が進み、水質が改善した歴史があります。
ノンポイント汚染源
ノンポイント汚染源とは汚染物質の排出源が山林・農地・市街地などに散在し、特定することが難しい汚染源のことをいいます。汚染物質には、山林・農地・市街地などから生じる農薬・窒素・リン酸・重金属類などがあげられ、健康に有害な物質も含まれます。
排出元の特定をすること、排出された後コントールすることそれぞれ難しいことがノンポイント汚染源の特徴です。
生活排水・産業排水は、どこから排出されるのか特定をすることができるので「特定汚染源」と呼ばれ、ノンポイント汚染源は「非特定汚染源」とも呼ばれます。
水質の環境基準
水質はどんな基準で「汚れている」とされるのでしょうか。
環境基本法第16条により定められた、水質汚濁に関係する環境基準は、人の健康を保護し生活環境を保全するうえで、維持することが望ましい基準とされています(※)。
そのため、基準には人の健康の保護に関する項目について定められたものと生活環境の保全に関する項目について定められたものの2つがあります。
健康項目
健康項目についての項目と基準値は以下の通りです。重金属・その他の健康に有害とされる項目に環境基準が設定されています。
環境基準を超えると、水は飲用には適さないこととなり、食物として摂取する魚を通じた影響も生じる可能性があります。生産用に使う水としても働く人の健康に対する懸念が指摘できるでしょう。
健康項目の基準 | |
---|---|
項目 | 基準値 |
カドミウム | 0.003mg/L以下 |
全シアン | 検出されないこと |
鉛 | 0.01mg/L以下 |
六価クロム | 0.05mg/L以下 |
ひ素 | 0.01mg/L以下 |
総水銀 | 0.0005mg/L以下 |
アルキル水銀 | 検出されないこと |
PCB | 検出されないこと |
生活環境項目
生活環境項目についての基準は以下の通りです。さらに法律およびこれに基づく環境省の告示では、水域の類型(例:一級河川・二級河川などの河川類型)ごとに基準が分かれています。
これらの項目の数値が高いことにより、人の健康に直ちに影響があるわけではありません。しかし、例えば食料となる魚の生育など生物に対する影響や、海水浴などのレジャー、あるいはにおいなどの生活環境に影響を与える可能性があります。
生活環境項目の基準 | |||
---|---|---|---|
河川 | 湖沼 | 海域 | |
BOD | ≦1~10mg/L | - | - |
COD | - | ≦1~8mg/L | ≦2~8mg/L |
pH | 6.0~8.5 | 6.0~8.5 | 7.0~8.3 |
SS | ≦25~100mg/L 等 | ≦1~15mg/L 等 | |
DO | 2~7.5mg/L≦ | 2~7.5mg/L≦ | 2~7.5mg/L≦ |
大腸菌群数 | ≦50~5000MPN/100mL | ≦50~5000MPN/100mL | ≦1000MPN/100mL |
n-ヘキサン抽出物質 | - | - | 検出されないこと |
全窒素 | - | ≦0.1~10mg/L | ≦0.2~1mg/L |
全りん | - | ≦0.005~0.1mg/L | ≦0.02~0.09mg/L |
水質汚染の現状
それでは、現在の日本の水質汚染はどのような状況なのでしょうか。国土交通省の報告から見ていきましょう。
健康項目
国土交通省がまとめた「日本の水資源」によると、健康項目については、ほとんどの地点で環境基準を達成しており、2011年調査で、全27項目98.9%の達成率です(※1)。
新しい調査結果の参考例ですが、長崎県の2020年の調査では、以下のような結果となっています。
公共用水域(河川、海域等)調査結果
健康項目(重金属等)の環境基準適合率 99.2%(※2)
生活環境項目
国土交通省の調査によれば、2011年調査の生活環境項目の環境基準適合率は、全体88.2%、河川93.0%、海域78.4%、湖沼53.7%でした(※)。
上記の「日本の水資源」のグラフによると、河川では全体としては達成率が上昇傾向であることがわかります。また、渇水年(1994年・2005年)には汚染物質が濃縮されてしまうので、低下も見られています。
これに対して、湖沼では近年改善の兆しが見られるものの、達成率そのものが依然として低い状況にあり、水質改善の課題とされています。
課題は湖・沼の水質改善
湖や沼は「閉鎖性水域」といって、水の環境循環が起こりにくいことから汚濁物質が蓄積しやすくなり、いったん汚染が進行すると改善が難しいことで知られています。
このため、水質汚濁防止法に加え「湖沼水質保全特別措置法」が1984年に制定され、現在は水質保全が必要な11の湖沼を「指定湖沼」としています(※)。
指定湖沼:霞ヶ浦、印旛沼、手賀沼、琵琶湖、児島湖、諏訪湖、釜房ダム貯水池、中海、宍道湖、野尻湖、八郎湖
SDGs目標6が「安全な水とトイレを世界中に」
ここで世界に目を転じてみましょう。SDGsでは、目標(ゴール)6において「安全な水とトイレを世界中に」と定められています。SDGsとは持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)のことです。
世界では、水問題は非常に大きな問題であり、安全な水を確保できない人口は、2019年に発表されたユニセフ・WHOの調査によれば、22億人にも上るとされています(※)。
また、水が安全でないことは伝染病の原因となり、発展途上国の多くで高い乳幼児死亡率の原因とされています。
SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」のターゲットとは?
SDGsの達成目標には、より具体的なターゲットがあります。ターゲットは全部で8項目ありますが、その一部をご紹介します。
- 6.1 2030年までに、だれもが安全な水を、安い値段で利用できるようにする。
- 6.2 2030年までに、だれもがトイレを利用できるようにして、屋外で用を足す人がいなくなるようにする。女性や女の子、弱い立場にある人がどんなことを必要としているのかについて、特に注意する。
- 6.3 2030年までに、汚染を減らす、ゴミが捨てられないようにする、有害な化学物質が流れ込むことを最低限にする、処理しないまま流す排水を半分に減らす、世界中で水の安全な再利用を大きく増やすなどの取り組みによって、水質を改善する。
現在、世界にはまだまだ安全な水を確保できない人、安全なトイレを使用できない人がたくさんいますが、これらの課題を2030年までに解決することを達成目標としているのです。
42億人が清潔なトイレを使うことができない
ターゲットの達成を待っている人たちはどれくらいいるのでしょうか。ユニセフ・WHOの調査では安全な飲み水を待っている22億人のほか、以下のように極めて多くの人たちが水とトイレを求めて困っています。
- 42億人が安全に管理された衛生施設(トイレ)を使うことができていない。
- 30億人が基本的な手洗い施設のない暮らしをしている(※)。
特定の地域による支援だけでは、これだけ多くの人のニーズにこたえることはできません。
川の水は、海に注ぎ込み、地球の隅々まで届く可能性があるものです。そのため、一国の取り組みが、世界各国に影響すると考えられます。世界各国が足並みをそろえなければなりません。
国連のSDGsの目標を達成するために各国がアクションを起こすことは、国際的に協調してこの問題を解決する意味があります。
さらに、国だけではなく、個人でも取り組めることがあります。日本の生活排水に関する取り組みが、法律上国民の努力目標とされているのは、1人ひとりの取り組みが、他国での安全な飲み水の供給につながると考えられるからです。
今、水質の改善のために、自分に何ができるのか考え、実際に行動することが重要な意味を持っています。
私たちにできる水質改善
では、私たちでも取り組める身近な水質改善策にはどのようなものがあるでしょうか。
単独浄化槽・汲み取り式トイレから下水道・合併浄化槽へ
まだ単独浄化槽(し尿の処理のみの浄化槽)、または汲み取り式トイレを使用している家庭は、下水道か合併浄化槽(し尿・雑排水双方の処理)へと切り替えることが考えられます。2020年度段階で、単独浄化槽は全国で約363万基あり、これは全浄化槽設置数の48%を占めます。(※1)。また、日本の人口に占める非水洗化(汲み取り)人口は、2020年度で11.8%と推計されています(※2)。
下水道や合併浄化槽を利用すると、雑排水を処理することができるので、汚水をそのまま自然環境に排出しないようになります。お住まいの地域が下水道エリアでない場合は、合併浄化槽が使えますが、設置には自治体の補助金があるので利用しましょう。
キッチンでの工夫
キッチンでは、雑排水が下水道や合併浄化槽へ過剰な負荷にならないよう、以下の工夫をしてみましょう。
- 調理くずや食べ残しは、(くずとりネットなどで)回収して流さないようにする
- 食器や鍋などのひどい汚れや油は、紙などで拭いてから洗う
- 味噌汁やめん汁などは、残して捨てることのない量を作る
- 使えなくなった油は、流しに流さない。凝固剤を使うか、布や紙に吸収させてから捨てる
側溝での工夫
側溝にごみや雑排水を捨てないようにすることは、ノンポイント汚染源を減らすことにつながります。こまめに清掃をすることも有効な水質改善策であることが知られています。
河川・湖・海での配慮
河川・湖・海では、ごみを捨てない、生活排水を流さないのはもちろんです。レジャーの後始末が不適切だと水質汚染につながりますので、ごみを残さない、片づけを徹底するなど、レジャーが水質汚染につながらないようにしましょう。
また、入漁禁止・立ち入り禁止区域を守ることなど、河川・湖・海の環境保全のため管理者が行っている指示を守るようにしましょう。
環境にやさしい電気を
進行している地球温暖化も水環境に大きな影響を与えています。地球温暖化によって水温の変化、河川流量の変化、融雪時期の変化、湖水水位の変化などが予想され、生態系への影響が現れるおそれがあると考えられています。また、海面上昇が予想されているので、沿岸部の地下水が塩水化していくことも懸念されています。
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