地球温暖化対策が喫緊の課題となっている現在、二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーの普及拡大が求められています。その1つが、風の力を使って電気を作り出す風力発電です。
では、風力発電とはどういったものなのでしょうか。この記事では仕組みや種類など風力発電の基本から、メリット・デメリットなどをご紹介します。
風力発電とは
風力発電は、風の力で羽根(ブレード)を回転させ、発電機を動かすことで電気を生み出す発電方法です。風力発電がどのように電気を作り出しているのか、基本的な仕組みと歴史を見ていきましょう。
風力発電の基本的仕組み
風力発電では、風車に風をあてたときに発生する回転エネルギーを直接発電機に伝えて電気を起こします。
風車の回転エネルギーはほかのエネルギーに変換されてさまざまな用途に利用できます。風力発電では、風車に発電機をつなぎ、電気へと変えています。
羽根(ブレード)の回転は、動力伝達軸からナセルといわれる装置へと伝えられ、内部の増速機によって回転速度を高めて発電機へ送られ、電気エネルギーになります。
さらに、風の強さに合わせブレードの角度を変える可変ピッチ機構や風向きにより風車の向きを変える方向制御機構などを搭載し、どのような風に対しても効率的に発電できるようになっています。
風力発電の歴史
風車がいつ生まれたか、はっきりとはわかっていませんが、風力は水力とともに最も古くから人類に利用されてきた自然の動力でした。紀元前36世紀のエジプトにも風車が農業灌漑や揚水に利用された記録が残っています(※1)。
10世紀ごろからイスラム圏を中心に欧州や中国に伝わり、産業革命の時代には動力として重視されるようになります。
現在のような風力発電が開発されたのは19世紀の終わりのこと。当時、ヨーロッパやアメリカなどで風力発電の実験が試みられており、なかでも、今日の風力発電の基礎を確立したのはデンマークのポール・ラクールだといわれています。
1891年、自らが教師を務めるアスコー国民高等学校に世界初の風力発電装置を作り、1897年には直径22.8mにもなる大型風力発電装置を完成。さらに、風車の回転数を安定させる回転調整器などを開発して風力発電実用化に大きく貢献しました。風力発電はデンマークを中心に発展していきます。(※2)
現代では火力発電が主流ですが、最近、地球温暖化問題が注目されるとともに再生可能エネルギーが脚光を浴び、風力発電も見直されるようになっています。
※1 出典:風車の歴史(一般社団法人 日本風力発電協会)
※2 出典:風力発電発祥の地:ポール・ラクール博物館を訪ねて
風力発電の種類
風力発電は風車の形状によっていくつかの種類に分かれます。風車には、回転軸の方向によって大きく水平軸風車と垂直軸風車の2つのタイプがあります。それぞれどのような特徴をもっているかを見ていきましょう。
水平軸風車
回転軸が地面に対して水平になっている風車を水平軸風車といいます。構造が単純かつ大型化にも向いているのが特徴です。プロペラ式、オランダ式、多翼式、セイルウイング式などがこのタイプに分類されます。
このなかでも、高速回転が可能で、発電に向いた形状をしているのがプロペラ式風車です。3枚羽根のものは風力発電の主流として山の上や海上などで広く使われています。大きいと羽根の直径が70mになるものもあります。プロペラ式風車の欠点として、騒音が大きくなることや首振り運動によるエネルギーのロスが生じることなどがあげられます。
垂直軸風車
回転軸が地面に対して垂直になっている風車を垂直軸風車といいます。このタイプの風車は風向きを選ばず、どの方向からの風でも利用できるのが特徴です。デメリットとしては、設置するのに場所をとること、水平軸風車と比べると効率が落ちることがあげられます。
垂直軸風車には、ダリウス式、パドル式、サボニウス式、ジャイロミル式などがあります。発電では主にダリウス式風車が使われます。中央が湾曲した縦向きの羽根が特徴のダリウス式は、発明者の名前から命名された新しいタイプの風車です。風速の数倍以上で回転できるため発電に向いており、強風時でも騒音が少ないメリットがあります。
陸上風力発電所と洋上風力発電所
風力発電は風によって発電量が大きく左右されるため、実用的な発電量を確保するには「風況(風の吹き方)」の良い場所に設置する必要があります。
主な設置場所には、山間部や海岸部、海上などがあり、陸上に設置するものを陸上風力発電所、海上に設置するものを洋上風力発電所といいます。それぞれの特徴とメリット、デメリットをご紹介します。
陸上風力発電所
山間部や高原、海岸近く、半島の尾根など、陸上で風況の良い場所に設置するタイプの風力発電設備を陸上風力発電所といいます。日本では、北海道や北東北、九州などに多く設置されており、これまで国内で導入された風力発電の中心を担ってきました。
陸上風力発電所のメリットは洋上に設置する場合と比べて初期費用などが安く済む点です。
反対にデメリットは、設置に適した土地が限られることです。
陸上に風車を設置するのに適した土地にはさまざまな条件があります。風況が良いことはもちろんで、同じ場所でも季節によって風の量が変わるため、年間を通じて一定の風量が確保できる場所が選ばれます。ほかにも、送電線までの距離が近いこと、設置工事を行うときに工事車両が出入りできるようアクセスが良いことや、風車が騒音を起こすため近隣に住宅がないことなどが条件です。これらすべてを満たす場所となると、適地はかなり限られます。
洋上風力発電所
上で説明したように、陸上風力発電所は風車の設置場所が限られるのがデメリットです。そこで、新たに注目されているのが、海上に風車を設置する洋上風力発電所です。
洋上風力発電所には、着床式と浮体式の2つの方式があります。着床式は風車の支持構造物を直接海底に埋め込み、固定して据えつける方法。水深の浅い場所での利用に向いています。
浮体式は、船のような浮体構造物の上に風車を設置し、それをアンカーで海底に繋ぎ止める方法で、水深の深い場所での利用に向いています。コストが安く済み、着床式では難しかった海域での風力発電が可能になるため、今後の洋上風力発電を変える存在として注目を集めています。
洋上風力発電所のメリットは大きく2つ。1つ目は、風況が良く、風車も大型化できるため、安定して大きな電力供給が可能になる点です。2つ目は、騒音が問題になりにくく、万一、風車が破損した際も人的被害が出にくい点です。
反対にデメリットには、風車を設置・維持するための初期費用・ランニングコストの高さや送電線を海中ケーブルで敷設する必要がある点など、主に陸上風力発電所と比べて費用が大きくなるところがあげられます。
風力発電のメリット
風力発電が注目されるのは、再生可能エネルギーであることはもちろんですが、それ以外にもさまざまなメリットをもっているからです。風力発電がもつメリットをご紹介します。
枯渇する心配がない
風力発電は発電を行うためのエネルギー源が枯渇する心配がありません。
火力発電は石炭や石油など化石燃料を使用するため、埋蔵量が限られます。将来も発電を続けるためには、使用量を制限したり、代替燃料を探したりする必要があります。
しかし、風力発電であれば、風を利用するのでエネルギー源を無限に得ることができます。資源の枯渇を心配する必要はなくなります。
発電のときCO₂を排出しない
風力発電は、太陽光などほかの再生可能エネルギーと同じく、発電時にCO₂を排出しないクリーンな発電方法です。また、火力発電のように窒素酸化物などの有害物質を排出することもなく、全体的な環境負荷は小さくなっています。
発電コストが比較的安価
再生可能エネルギーのなかでは、発電コストが比較的安いことも風力発電のメリットの1つです。一般的に、再生可能エネルギーでは環境負荷を減らせても、コスト面は割高になることが多いです。しかし風力発電の場合、大規模に発電設備を設置できれば、火力発電並みに発電コストを抑えられると試算されており、経済性も兼ねそなえた発電方法といえます。
※出典:発電コスト検証に関するこれまでの議論について(経済産業省)
※出典:風力発電について(資源エネルギー庁)
変換効率が良い
風力発電はほかの再生可能エネルギーと比べて、エネルギー変換効率が高いのが特徴です。
エネルギー変換効率とは、入力に対してどれだけの電気を出力できるかの割合です。風力発電の場合、機械効率や発電機効率を差し引いても約20〜40%といわれます。
ほかの発電方式での変換効率は、太陽光発電が約10数%、地熱発電が約10〜20%、バイオマス発電が約20%とされており、風力発電はこれらと比べてより高効率の発電方法といえます。
※出典:Looop Club 発電効率が1番いい自然エネルギーはなに?
夜間も稼働
風力発電は昼だけでなく、夜間も稼働できる点が大きなメリットです。
同じ再生可能エネルギーである太陽光発電は、太陽が出ている昼間しか発電できませんが、風力発電なら風さえ吹いていれば時間を選ばず発電できます。太陽光発電と比べるとコストパフォーマンスに優れているといえます。
風力発電のデメリット
たくさんの優れた点をもつ風力発電ですが、一方で、デメリットといえる部分ももっています。次は、風力発電を採用するとき、どういった点が問題になるかを見ていきましょう。
地元合意が必要となる
風車の騒音が問題視されることがありますが、風車設置地点で発生する騒音は約105dbとされ、芝刈り機と同程度で騒音レベルとしてはそれほど高くありません(※)。風力発電所から出る騒音により、聴力への影響や耳鳴り、頭痛など人の健康に直接影響を及ぼす可能性は低いと考えられています。
しかし、長時間近くにいると、わずらわしさを生じさせ、睡眠への悪影響などにつながる可能性があります。このため、風力発電所の建設には環境アセスメントなどと合わせて地元との合意が必要になります。
※出典:GE Reports 風力タービンの騒音レベルってどのくらい?
発電量が天候に左右される
風力発電は風の発生という自然現象によって発電量が左右されます。
風力発電の風車は通常、風速3.5〜4m/s(メートル毎秒)で回転をはじめます。発電能力は風速の3乗に比例し、約12m/sで最大になりますが、風速25m/sを越える強風時も羽根が壊れる恐れがあるので風車を止める必要があります(※)。
いつも発電に適した風が吹いてくれるとは限らず、電力のピークに合わせて簡単に発電量を増やしたりはできません。出力が変動すると、周波数も変動して電化製品にも悪影響を与える恐れがあります。需給のバランスが崩れれば、最悪停電を引き起こすため、ほかの発電方法も併用する必要があります。
※出典:Looop Club 天候によって発電量が変わってしまう自然発電エネルギー
適地が限定される
風力発電には風車が設置できる場所が限られているデメリットもあります。風力発電は風況の良い場所に建てる必要がありますが、NEDOや環境省が提供している風況マップの年平均風速を見ると、日本には適地がそれほど多くありません。
適地であってもさまざまな理由から設置が難しい場合もあります。騒音問題や風車が電波障害の原因になることがあるので、住宅地の近くには設置できません。すると、電力需要の高い都市部の近くに設置することは難しくなります。また、周辺の景観破壊につながることから反対される場合もあります。
ほかにも、山や丘陵が多い複雑な地形をもつ日本では、「乱流」と呼ばれる風の乱れが起きる地域や台風の襲来が多い地域、落雷が多発する地域などがあります。こうした場所では、気象によって風車の羽根や部品が飛散したり、風車が基礎ごと倒壊したりといった事故が起きる恐れもあり、設置には慎重な検討が求められます。
風力発電のメリットとデメリット | |
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メリット | デメリット |
・資源が枯渇する心配がない ・CO2を排出しない ・発電コストが比較的安価 ・エネルギー変換効率が良い ・夜間も稼働できる |
・騒音が発生する ・発電量が天候に左右される ・設置できる適地が限られている |
日本の風力発電の展望
2020年時点で、日本の風力発電の割合は0.9%で、同じ再生可能エネルギーである太陽光発電の10分の1とまだまだ普及が進んでいるとはいえません(※1)。日本では陸上の適地が少なくなってきていることに加え、世界的に低下している風力発電コストが高止まったままという問題もあります。
しかし、風力発電がもつポテンシャル(理論的なエネルギー量)には大きな期待が寄せられています。特に、洋上風力発電の拡大は日本の風力発電に新たな可能性を生みました。着床式で約128GW、浮体式で約424GWのポテンシャルがあると見込まれています(※2)。
2019年には「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(再エネ海域利用法)」が施行され、今後はさらに洋上風力発電所が増えていくと考えられます。洋上風力発電には、日本海側と太平洋側での風況の違いが判明していないなどの課題もあります。
しかし、陸上風力発電よりも大量導入やコスト低減が可能で、経済波及効果が大きいことから期待も大きく、経済産業省の第6次エネルギー基本計画では「再生可能エネルギー主力電源化の切り札」と位置づけられています。
※1 出典:特定非営利活動法人環境エネルギー政策研究所 国内の2020年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況
※2 出典:一般社団法人日本風力発電協会 洋上風力の主力電源化を目指して
再生可能エネルギーの電気を選ぼう
風力発電は、環境に優しいだけでなく、今後の発展も見込まれる再生可能エネルギーです。これからの地球環境を考えたとき、消費者も積極的にこうした発電方法を選択することが望ましいといえます。
普段の生活で発電方法まで意識することは少ないかもしれませんが、電力会社を選ぶことで消費者も電源の選択が可能になります。風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーを扱っている電力会社から電気を購入すれば、持続可能な社会づくりに貢献できます。
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