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安全?危険?改めて考える原子力発電のメリット・デメリット 安全?危険?改めて考える原子力発電のメリット・デメリット

東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所の事故から10年が経ちました。CO₂の排出がないなどの理由から、原子力発電所の再稼働の議論も少しずつ出てきています。

原子力発電所再稼働の議論や、今後のエネルギー問題を考えるうえでは、原子力発電のメリットやデメリットについて改めて知っておくことが必要かと思われます。

地球温暖化問題が待ったなしの状態になり、エネルギー問題とともに世界的に議論されているなか、原子力発電の問題をずっと無視することはできません。

そこで原子力発電のメリットとデメリット、環境問題・エネルギー問題を考えるうえで、電力会社を選ぶことがどんな意味をもつのかについてまとめました。

※この記事は2021年11月現在の情報を記載しています。

原子力発電の仕組み

原子力発電の仕組み 原子力発電の仕組み

原子力発電はどのような仕組みで発電しているのでしょうか。核分裂が生じさせる大きなエネルギーの発生のメカニズムと、電力への利用の方法について以下でご紹介します。

原理は火力発電と同じ

原子力発電は、水を水蒸気に変えてタービンを回す点で、火力発電と原理が同じです。火力発電所のボイラーにあたるものが原子炉ですが、この中でウラン燃料が核分裂を起こして熱をつくります。核分裂により生じた熱により水を水蒸気に変えてタービンを回し、電気をつくることにより、ご家庭や事業所に電力が供給されるのです。

核分裂のエネルギーを利用

ウラン燃料のうちのウラン235は、中性子を吸収すると核分裂を起こします。このときに大きな熱エネルギーが生じます。また、その際にはウラン235の原子核から2~3個の中性子が飛び出すため、それらの中性子がさらなる核分裂を起こします。

このようにして、連続的に核分裂が続いていくことを「臨界」といいます。原子炉内で臨界状態においたウラン燃料から膨大な熱エネルギーを生じさせ、それらを利用することで、原子力発電所は発電を行っているのです。

原子力発電のメリット

ところで原子力発電のメリットはどこにあるのでしょうか。原子力発電所が世界各国で利用されてきた理由は、以下のようなものです。

燃料を安定して入手可能

原子力発電の燃料となるウランは、中東諸国で産出される石油と比べると、オーストラリアやカナダなど政情の安定した国から入手ができるため、資源の安定確保が可能です。

石油の採掘地として代表的な地域・中東は、紛争が多く発生してきた地域でもあり、政情が不安定なことから石油の輸出量が不安定になりがちです。そのことで、原油価格が政治や安全保障などの複雑な要因で乱高下してしまうのです。

「石油危機」のように、石油の安定供給には難しい時期が今までにも生じていることから、石油を使い続けることは社会全体のリスクになります。石油による火力発電に依存すると、産油国をめぐる国際情勢の変化によってたちまちエネルギー不足が起こる危険性をもっています。

これに対して、原子力はウラン燃料の安定供給ができることから、急なエネルギー不足に陥ることが考えにくいのです。

またウランは使い終わると再処理することで再び燃料として使用することができます。再処理により、ウランは準国産のエネルギー資源になることもメリットです。

発電時にCO₂を排出しない

核分裂のエネルギーを利用する原子力発電は、発電時に地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO₂)を排出しないので、地球温暖化対策の1つとして期待されています。

一方、火力発電所は石炭・天然ガス・石油などの化石燃料を燃やして発電しますので、必然的にCO2を排出することになります。

なお原子力発電は、石油とは桁違いに少ない量で輸送することから、発電時だけでなく輸送時も環境負荷が少ないことが知られています。

石炭・天然ガス・石油などによる火力発電では、大型タンカーなどによる大掛かりな輸送手段を必要とし、消費する分だけ大量で頻繁な輸送を必要としています。発電だけでなく、輸送においても環境負荷が大きいのです。

電気料金の安定に役立つ

原子力発電では、多くの燃料を必要としないので、火力発電に比べ発電コストに占める燃料の割合が少ない特徴があります。例えば、一般家庭1年分の電気を発電するために必要な燃料を試算すると、火力発電の天然ガスでは490kgですが、原子力発電の濃縮ウランですと0.011kgで済みます(※)。燃料費が高騰すると、石炭・天然ガス・石油などによる火力発電では発電コストが多くなり、結果として電気料金を押し上げる効果が生じます。

特に最近では、火力発電の燃料である天然ガスの価格が世界各地で高騰しています。アジアの液化天然ガスのスポット価格は、2021年10月初旬には2020年の同じ時期と比べて10倍を超える水準にもなっています。

燃料価格の乱高下によって電気料金が上下すると、国民生活全体が大きな影響を受けてしまいます。

一方、原子力では燃料費の高騰の影響を受けにくいので、コストの変動が大きくありません。コストの変動が小さいことは、電気料金の安定に役立ちます。

※出典:電気事業連合会 原子力コンセンサス2013

原子力発電のデメリット

一方、原子力発電にはどのようなデメリットがあるのでしょうか。またそれらのデメリットを克服することは難しいことなのでしょうか。

事故が発生すると深刻な被害を生む

東京電力福島第一原子力発電所の事故が記憶に新しいですが、核燃料から放射性物質の放出があるため、事故が発生するとほかの方式の発電所とは比べ物にならないほどの深刻な被害を生んでしまい、被害を回復することも難しい面があることが最大のデメリットと考えられます。

福島原発事故のように、原子力発電所が大きな事故を起こすと原子炉がコントロールを失い、大量の放射性物質が原子炉から漏れ出る可能性が高くなります。放射性ヨウ素や放射性セシウムなどが放射性物質の代表です。

空気、土壌、そして体表にある放射性物質から人が放射線を受けることがあり、それを外部被ばくと呼びます。一方、空気中や土壌の放射性物質が、水や食べ物に入って、それを口にしたり、空気中の放射性物質を呼吸と一緒に体の中に取り込んだりして、人の体の中から放射線を受けることを内部被ばくと呼びます。

外部被ばくも、内部被ばくも人の健康に有害な影響が生じる可能性があります。原子炉の修復作業を行う作業員にも外部被ばくの恐れがあり、原子炉には近づけなくなります。

放射性物質を完全に除去するのは技術的に難しい面があり、半減期の長い放射性物質の場合だと何万年もの間残り続ける可能性もあります。

福島原発の場合も、あるいはチェルノブイリ原発事故の場合でも、こうした事故の影響を取り除くのには非常に長い時間がかかっていますし、健康被害の懸念から住民の長期間の避難が余儀なくされました。

高レベル放射性廃棄物の存在

原子力発電では、ウランを核分裂反応させる過程で生じる熱を取り出すのですが、この過程で使用済み核燃料が発生します。

使用済み核燃料は、再処理により95%が再利用可能ですが残りの5%は再利用できない廃液になります。ところがこの廃液は、最終処分方法がまだ確定していません。

地下深くの安定した岩盤に閉じ込める「地層処分」という方法が提唱されていますが、日本では受け入れる自治体がなく、現状では実現は不可能になっています。日本だけでなく、ドイツやアメリカでも何度計画されても実行されていない状況にあります。

高レベル放射性廃棄物は、約10万年もの間消えることがなく、人から隔離しないと安全性が保障できません。日本の場合、地震や火山が多いことから、地下深く埋めて安定する場所を見つけるのも大変です。

高レベル放射性廃棄物の地層処分の受け入れをどこで行えば安全か、また環境に対する影響はどの程度であるか、影響の地理的な範囲もどれくらいに及ぶのか、正確にわからない面もあります。放射性廃棄物の最終処分は、地球規模の課題ということができるでしょう。

廃炉するときにも莫大な費用がかかる

原子力発電所の原子炉は、老朽化した後で廃炉にする場合莫大な費用がかかります。東京電力福島第一原発の場合は、廃炉・解体に22兆円かかるとされています(※1)。

これは事故の影響があって非常にコストが大きくなってしまったものです。通常、役割を終えて廃炉・解体される原子炉の場合には、ここまでの費用がかかるものではないとされています。

資源エネルギー庁が試算したところ、原子炉には以下のような廃炉・解体コストがかかるとされます(※2)。

小型炉(50万kW級):360~490億円程度

中型炉(80万kW級):440~620億円程度

大型炉(110万kW級):570~770億円程度

無事故で役割を終えた原発の場合でも解体費用は相当に大きな金額になります。これに対して、火力発電所の場合、原子力発電所の小型炉に相当する出力(50万kW級以下)をもつ大きさのものでは解体費用が30億円程度とされるので、大まかにいうと同じ大きさで10分の1未満となる計算です。原子力発電所の廃炉・解体コストの大きさは桁が1つ違います。

ただし原子力発電所は発電コストが低めであり、同じ電力量を発電する場合、火力発電所の2~4分の1のコストで済ませることができます。そのため電気料金に廃炉や解体のコストを上乗せすることにより一定の期間で回収可能と考えられています。

※1 出典:三菱総合研究所 福島第一原子力発電所の廃炉にはいくらかかるの?
※2 出典:原子力発電所の廃炉に係る料金・会計制度の検証結果と対応策

原子力発電所の再稼働が議論される理由

原子力発電所の再稼働が議論される理由 原子力発電所の再稼働が議論される理由

近年、地球温暖化・気候変動が国際社会の大きな議題となり、発電時CO₂を発生させない原子力発電に改めて注目が集まるようになっています。

その一方で、日本では東日本大震災から10年、福島第一原子力発電所で事故が起きたことから、慎重な姿勢を見せる方も少なくありません。実際、事故後の国内の原子力発電所は、世界一厳しいとされる適合性審査に合格したものしか再稼働が認められず、原子力発電所からの電力供給は急速に減少しました。

原子力発電が急減して以降、その不足分をカバーしたのが火力発電でした。しかしそのことによって、結果的にCO2を大量に排出し続けることになりました。同時に、化石燃料価格の高騰によって、電力の安定供給が確保できるのかも懸念されています。

そうしたなかで再生可能エネルギーの普及・拡大が目指されるとともに、原子力発電にも期待がかけられることになりました。原子力発電はCO₂を発電中に排出しないことから、脱炭素化の重要なカードになり、地球温暖化問題の解決につなげられると顧みられるようになったのです。改めて事故の影響を考えながらも、再稼働をすべきか否かで議論が生じているのです。

エネルギーを選べる時代

今までご紹介したとおり、原子力発電にはメリットとデメリットがあることがわかります。環境へ悪影響を与えるのはCO₂なのか、放射性物質なのか、判断が難しい面があります。

原子力発電に関してもメリットとデメリットを冷静に比較して、許容できるリスクは何なのかを考えるようにすると、今後のエネルギー問題・環境問題についても大きな視野からの解決につながるのではないでしょうか。

2016年の電力小売全面自由化以降、消費者がどのようなエネルギーで発電した電気なのかを選ぶことが可能になりました。消費者はより環境に優しい電力を求めて、再生可能エネルギー普及に積極的な電力会社を選ぶことができます。

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