世界規模で問題となっている地球温暖化。地球温暖化対策には「脱炭素」と呼ばれるCO₂排出削減への取り組みが欠かせません。
そんな中で「脱炭素の切り札」とささやかれているのが水素エネルギーです。再生可能エネルギーとともに語られることも多い水素エネルギーにはどんなメリットがあるのでしょうか。
今回は、脱炭素に向けた流れで注目を浴びる水素エネルギーの基礎知識やメリット・デメリット、水素エネルギー導入への各国の取り組みなどを解説します。
水素とは
水素は宇宙で最も軽い物質として知られています。原子番号1、元素記号「H」。その重量は空気の約14分の1。大気に放つとすぐに拡散してしまいます。
また、水素は宇宙に最も多く存在する物質でもあります。宇宙全体の7割を占める水素は、星々が光るための重要なエネルギー源です。
例えば、地球の動植物が大きな恩恵を受ける太陽の光と熱も、水素の大規模な核融合によるものです。
水素は地球上では酸素(O)と結びついた「水(H₂O)」という形で多く存在しています。
また、一般的な「水素」は水素ガス(H₂)を指すことがほとんどです。ロケットの燃料にも使われる水素ガスは優れたエネルギー効率を持つことでも知られています。
エネルギーとしてどのように活用するのか
宇宙の70%を占める物質である水素は、地球上ではどのような形でエネルギーとして活用されているのでしょうか。主な用途をご紹介します。
燃焼させて熱エネルギーに
水素のエネルギー活用方法としてまず挙げられるのが、燃焼による熱エネルギーです。水素を燃焼させることで生まれる熱エネルギーは、ピストンやタービンなどを動かす動力として利用されます。
代表的なのはロケット燃料。日本やアメリカ、ロシアなどロケットの開発国では、液化した水素燃料(H₂)を燃料とした液化水素ロケットが製造されています。
また、近年では水素から得られる熱エネルギーを利用した「水素発電」も高い注目を浴びる活用方法の1つです。
水素を燃焼させるエネルギー利用の大きなメリットは、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料のように燃焼時にCO₂が発生しない点にあります。CO₂排出量がゼロである水素は、「脱炭素」社会に適したエネルギー源といえるでしょう。
酸素と反応させて電気エネルギーに
水素は酸素と反応させることで電気エネルギーも得られます。代表的なのが燃料電池です。
燃料電池とは燃料と酸化剤(酸素)の反応から電気を取り出す電池のことで、主な燃料は水素です。ほかにもメタノール、ヒドラジンといった物質が使われています。
充電はできないものの、外部から燃料と酸化剤を供給することで続けての使用が可能です。このため、使い捨ての1次電池とも一線を画しています。
燃料電池のメリットは、発電効率が高い点にあります。化学反応によって燃料を直接電気エネルギーに変換するため、幾度かのエネルギー変換を経て電力を得るほかの装置よりも効率的です。
燃料電池自動車(FCV)や家庭用電池として普及している燃料電池の有用性は、半世紀以上前から注目を浴びています。1961年~1972年に実施されたアメリカの航空宇宙局(NASA)による有人宇宙飛行計画「アポロ計画」でも宇宙船の電力源として採用されました。
現在では自動車やバスの動力源だけでなく、大型の業務用発電機への導入も進んでいます。
なぜ水素エネルギーが注目されているのか
燃焼による熱エネルギーと化学反応による電気エネルギーが得られる水素。ここからは、水素エネルギーが期待されるポイントを詳しく解説します。
二酸化炭素を出さない
水素エネルギーが注目される大きな理由は、二酸化炭素(CO₂)を出さないという点です。先ほども触れたように、熱エネルギー・電気エネルギーどちらの利用時にも、水素はCO₂をまったく排出しません。
世界規模で対策が急がれる地球温暖化の原因として挙げられるCO₂は、従来の火力発電や自動車などの排ガス、産業などで多く排出されています。
このCO₂を出さずに、電力・熱の両方で利用可能な水素は、脱炭素社会に大きく貢献するエネルギーとして期待されているのです。
エネルギー自給率を高める
水素エネルギーは、日本のエネルギー自給率を高める存在としても注目されています。
2019年度時点での日本のエネルギー自給率は12.1%。原子力発電所の多くが停止し、6.3%という過去最低の自給率を記録した2014年度に比べると、自然エネルギー発電などの導入により少しずつ向上しています(※)。
しかし、ほかの先進国と比べるとまだまだ自給率は高いとはいえません。化石燃料を中東地域からの輸入に頼っている面が大きいため、供給量や価格が世界情勢に左右されるリスクがあります。
その点、さまざまな原料から製造可能な上、圧縮や液化といった方法で輸送可能な水素は、エネルギー供給の安定性においても頼もしい存在です。
日本の産業競争力を高める
水素エネルギーには、日本の産業競争力を高めるという利点もあります。
世界が脱炭素に向けて動いている昨今、水素エネルギーへの期待は高まる一方です。水素技術の市場は2050年までに2.5兆ドル(約275兆円)まで膨らむと予想されています(※1)。
石油や石炭、天然ガスなどの資源は乏しい日本ですが、40年以上にわたる水素エネルギーや燃料電池の研究・技術開発で得た技術力やノウハウでは優位な存在。先ほども触れた「燃料電池」の分野では世界一の特許出願件数を誇っています(※2)。
特に国内の主要自動車メーカーや電化製品メーカーの競争力は群を抜いており、アスタミューゼが発表した「特許ポートフォリオとしての総合的な競争力を計る指標(2010〜19年の国別トータルパテントアセット)」の特許出願者別統計では上位20位のうち9社を日本企業が占めています(※1)。
水素エネルギーの課題
CO₂の排出ゼロの水素エネルギーは「脱炭素社会」に貢献する次世代のエネルギーとして高い注目を浴びており、国内での技術開発も順調です。
しかし、そんな水素エネルギーにもいくつかの課題があります。ここからは、水素エネルギーが抱える課題についてみていきましょう。
水素は1次エネルギーではない
まず挙げられるのが「水素は1次エネルギーではない」という点です。
エネルギーには大きく分けて1次エネルギーとそれ以上のエネルギーがあります。1次エネルギーとは、自然界から得られた変換加工しないエネルギーのことを指します。石油や石炭、天然ガスなどの化石燃料や原子力、再生可能エネルギーなどが当てはまりますが、それらは存在そのものがエネルギー「源」です。
これに対し、水素は製造を必要とする2次エネルギー。水素エネルギーを得るためには、1次エネルギーを使って「水素を作る」という工程が不可欠なのです。
そして、日本はこの1次エネルギーの自給率がとても低いことが特徴。1次エネルギーが供給されなければ、水素エネルギーの活用もできません。
結果的にCO₂を発生させると本末転倒
水素は熱や電気に変換する際にCO₂排出量がゼロであることが大きなメリット。ですが製造過程でCO₂が排出される方法では本末転倒です。
水素の製造方法は、現在開発中のものも含めさまざま。石油や天然ガスから生成する方法や水(H₂O)を分解する方法、自然エネルギーを利用する方法、ほかの産業で副次的に発生したものを回収する方法まで、多岐にわたります。
これらは製造過程や環境負荷をふまえて「グレー水素」「ブルー水素」「グリーン水素」「イエロー水素」といった名前が付けられています。CO₂を排出しないことから有力視されているのは「ブルー水素」と「グリーン水素」。現在ではこの2つの普及が求められています。
グレー水素
「グレー水素」は、天然ガスを原料とする水素の製造方法です。天然ガス中のメタン(CH4)や石油製品であるナフサなどの炭化水素を水蒸気と化学反応させ、水素と一酸化炭素(CO)に分けて、さらにCOを水蒸気と化学反応させて水素を取り出しています。
「化石燃料改質」と呼ばれるもので安価で大規模な製造が容易なため、現在では世界の95%がこの方式を採用しています(※)。
しかし、グレー水素は製造過程でCO₂を発生させてしまうという大きな欠点があるため、環境価値の高い方法とはいえません。
ブルー水素
グレー水素の製造過程で発生するCO₂の排出を、「CCS」と呼ばれるCO₂回収・貯留技術によって防ぐ製造方法が「ブルー水素」です。回収したCO₂は貯留・固定・再利用といった方法で排出されずに済みます。
グレー水素の製造過程と似通っているものの、CO₂を排出しない点で優れています。しかし、ブルー水素はまだ開発途上の方法。商用化にはまだまだ時間がかかります。
グリーン水素
「グリーン水素」は太陽光や風力、水力、バイオマスといった再生可能エネルギーから得られる電力を利用して、水(H₂O)を電気分解する製造方法です。再生可能エネルギーを利用するため、CO₂の排出がおさえられます。
グリーン水素は現在、「脱炭素」にかなった方法として最も普及が求められています。しかし、再生可能エネルギーの普及が先立って必要なため、主な水素製造方法になるまでには時間がかかるとみられています。
イエロー水素
原子力発電所で得られる電力を利用して水素を生成する方法が「イエロー水素」です。グリーン水素と同じく水を電気分解して水素を得ます。
既存の発電施設を利用できるものの、原子力発電のネックである放射性廃棄物が出てしまう点がデメリット。放射性廃棄物の管理・処分についても対策が検討されているため、環境保全に最適な生成方法とはいいがたいところです(※)。
輸送・供給過程でのコスト
水素エネルギーの輸送や供給にかかるコストも無視できない問題です。
水素の輸送方法としては高圧での圧縮や低温下での液化、ほかの物質に変換しての運搬が挙げられます。
化石燃料に比べてエネルギー密度が低い水素は、比較的輸送・供給コストが高くつくのがデメリット。例えば、気体の水素とガソリンを比べるとエネルギー密度は3,000分の1です(※1)。
都市ガスなどと同じくパイプラインでの輸送も1つの方法ですが、配管にかかるコストを考慮すると遠距離の輸送には向きません。現に、日本における水素のパイプライン利用は、近隣の化学工場への輸送などに限られています。
この問題を受け、経済産業省はガソリンや天然ガスと同程度のコスト実現を掲げています。現在の水素輸送コストは100円/Nm3(ノルマルリューベ)。これを2030年には30円/Nm3、将来的には20円/Nm3まで引き下げるのが目標です(※2)。
水素社会に向けた日本政府の取り組み
期待される「水素社会」に向けて、日本政府は「水素・燃料電池戦略ロードマップ〜水素社会実現に向けた産学官のアクションプラン〜」を策定しています。
具体的にはどのような取り組みなのでしょうか。次から詳しく解説します。
2020年~
2020年以降に実施する取り組みとしては、家庭用燃料電池や燃料電池自動車の利用拡大をはじめとする水素エネルギーの普及推進が挙げられています。
燃料電池の本格的な実装に向けた具体的な普及目標は以下の通りです。
2025年頃 | 2030年頃 | |
---|---|---|
家庭用燃料電池(エネファーム) | ― | 530万台 |
燃料電池自動車(FCV) | 20万台 | 80万台 |
水素ステーション | 320カ所程度 | 900カ所程度 |
目標実現に必要なのは、主要技術のコスト低減やほかのタイプの自動車との価格差低減です。
2025年までに燃料電池自動車(FCV)をハイブリッド自動車(HV)並の価格競争力へ引き上げるとともに、燃料電池システムを約2万円 / kWから0.5万円 / kWへ、水素貯蔵システムを約70万円から30万円に引き下げるとしています(※)。
2020年代半ば~30年代
2020年代半ばまでには、水素発電の本格導入と大規模な水素供給システムの確立が予定されています。
2030年頃までの目標としてまず挙げられているのが、未利用エネルギーから製造した水素を海外から供給する水素サプライチェーン(商品の生産から消費までの管理システム)の確立です。
水素エネルギーが主となる社会を目指すためには、大量消費を前提としたシステムを作らなければなりません。供給網の拡大に加えて、水素の生産・貯蔵・輸送までを一元管理することで、コスト削減が狙えます。
2030年代までの具体的な水素供給コスト目標として掲げられているのは30円 / Nm3となっており、将来的には20円/Nm3を目指すとされています(※)。
2040年頃
2040年代には、CO₂フリーな水素供給システムの確立段階と位置づけが設定されています。
この段階では、再生可能エネルギー由来の水素製造や、CCS(CO₂回収・貯留技術)との併用による環境負荷の低い水素製造技術を確立。水素製造施設・水素発電施設の大型化や輸送効率化によって水素価格の低減を加速し、安価で安定的な水素エネルギーの普及を定着させるとしています。
フェーズ3実現のためには、現段階から自然エネルギーをはじめとする環境負荷の低い水素製造技術の開発と実証が不可欠です。
再生可能エネルギーの電気を選ぼう
本記事では、「脱炭素社会」の実現に向けた次世代のエネルギーとして注目を浴びる水素エネルギーについて解説しました。乗り越えるべき課題も多い水素エネルギーですが、日本の技術開発力には特に高い期待が集まっています。
「脱炭素」に向け個人でできる取り組みとしておすすめなのが、発電方法の選択です。各ご家庭でも再生可能エネルギーを利用した電気を選ぶことで、脱炭素社会に貢献できます。
2021年8月に実施した「新電力会社についてのアンケート」において、「節約に期待できる新電力会社」「わかりやすい料金プランの新電力会社」「安心・信頼できる新電力会社」「おすすめしたい新電力会社」で第1位に輝いたLooopでんきを提供する「Looop」もまた、再生可能エネルギー事業に取り組んでいます(※)。
Looopが提供する「eneco」の「RE100%」プランでは、再生可能エネルギー実質100%、CO2排出量実質ゼロの電気をお届け。「CO2排出を削減したい」「エコ活動に貢献したい」「再エネに切り替えたい」といったお客様のニーズにお応えしています。
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