電気料金について知る際、「総括原価方式」というキーワードを見聞きしたことがあるでしょうか。日本では長らくこの方式で電気料金が決められてきましたが、2016年の電力小売全面自由化以降は変わりつつあります。
この記事では、総括原価方式の概要やメリット・デメリットを解説。また、電力小売自由化によって電気料金の決め方が今後どのように変わるのかを解説します。
総括原価方式とは何か
まずは総括原価方式の基本的な情報について改めて解説します。
総括原価方式とは、国が定める公共料金の算定方法です。電気料金や都市ガス料金、水道料金などに採用されています。
総括原価方式の狙いは、電気を供給するために電力会社が費やしたコストや事業継続のための資金を確保できるように設定されており、公益に関わる企業の存続を手助けすることにあります。その歴史は古く、1933年度に料金認可の基準となって以降、2016年の電力小売全面自由化まで電気料金の基軸となっていました。(※)
電気料金の基本的考え方
電気は人々の生活に欠かせない基礎的なインフラです。従来より国は、電力会社に地域独占供給を認めるとともに電力供給義務と料金規制などを課しています。
また、電気事業法第19条では、「料金が能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものであること」「特定の者に対して不当な差別的取扱いをするものではないこと」(※1)と定められています。
電気料金における基本的な考え方は以下の3原則に基づいています。
1.原価主義の原則
料金は、能率的な経営の下における適正な原価に適正な利潤を加えたものでなければならない。
2.公正報酬の原則
設備投資等の資金調達コストとして、事業の報酬は公正なものでなければならない。
3.電気の使用者に対する公平の原則
電気事業の公益性という特質上、お客さまに対する料金は公平でなければならない。
総括原価方式は、以上の3原則に基づいた算定方法です。電力会社の利用者が過剰な料金を請求されず、また、電力会社側も電気を供給するためにかかった費用を確実に回収できるバランスが保たれています。
また、電気の小売全面自由化後も、この3原則が重要であることに変わりはありません。どのプランでも、電気の利用状況に即した適切な金額設定が求められます。
このことから、今後も利用者が不公平な電気料金を支払う心配は少ないと言えるでしょう。
小売全面自由化以降の料金
以前までは電気料金は法律が定めた総括原価方式で算定されていましたが、2016年4月に電力の小売全面自由化に伴い改定されました。これまでは一般消費者は電力会社を選べませんでしたが、小売全面自由化によってさまざまな事業者が参入し、自由に選択できるようになったのです。
小売全面自由化以前との大きな違いは「電力会社が自社の裁量で電気料金を算定できる」という点です。とはいえ、電力会社同士の競争が少ないと消費者にとって不利益となる価格設定になりかねません。
この点を鑑みて、小売全面自由化後もしばらくは一定の規制が設けられることになりました。これが「経過措置料金」と呼ばれるもので、全国すべての電力会社に適用されます。
経過措置料金とは、従来の総括原価方式を用いた料金プランが据え置かれたものを指します。消費者は電力会社が新たに用意した料金設定と、これまでと同様の経過措置料金からプランを選べるようになっています。
この経過措置料金規制は2020年3月末までの予定でしたが、存続が決定し、現在も料金制度として続いています。
総括原価方式の算定方法
総括原価方式は具体的にはどのような算定方法が採られているのでしょうか。次から詳しく見ていきましょう。
総括原価方式の費用内訳
総括原価方式では電気を安定的に供給するために必要な費用、すなわち「総原価」がそのまま電気料金収入として算出されます。このため、電力会社は電力供給にかかった費用を確実に回収できます。
総括原価方式で使われる計算式は以下の通りです。(※)
総原価=営業費+事業報酬-控除収益=電気料金収入
計算式のさらに詳しい内訳は以下のようになります。
1.営業費
- 燃料費
- 購入電力料(他社から電力を購入した場合)
- 減価償却費(設備投資などにかかった費用を分割した会計処理)
- 人件費 ほか
2.事業報酬
発電所や送電線など電力設備運用のための資金調達によって発生する支払利息や配当など
3.収益控除
電気料金以外で得られる収入(他社に販売した電力料など)
総括原価方式での電気料金改定手続き
電気料金を値上げする場合、電力会社は電気事業法に基づいて経済産業大臣の認可を受ける必要があります。
申請を受けた経済産業大臣は、その内容が総括原価方式が目指すところである「最大限の経営効率化」を踏まえたものかどうかを電気事業法・関係法令に基づき厳正に審査。さらに、公聴会などで一般市民から広く意見を募り、最終的な判断に至ります。
また、料金改定に対する審査では「ヤードスティック査定」も行われます。「ヤードスティック」とは「物差し(尺度)」という意味です。電気料金を定める際、ほかの事業者のコストを参考に基準を決めるという方法で、鉄道事業などにも用いられています。
総括原価方式の利点
長らく日本の電気料金システムを支えた総括原価方式にはどのようなメリットがあるのでしょうか。ここからは、私たちの生活に欠かせない電気がどのように支えられていたのかを、総括原価方式がもたらす利点から解説します。
電気料金の根拠が明確になる
総括原価方式の利点としてまず挙げられるのが、電気料金の根拠が明確であるという点です。電気は基本的な社会インフラの1つですので、国民の不利益に繋がらないよう、総括原価方式によって管理されていました。
先述の通り、総括原価方式の電気料金は電気事業法という法律に基づいて算定されます。そのため、電気料金は電力会社の一存で決められず、不当に高い電気料金が定められることもありません。
また、電力会社は電気料金の根拠を国に提出しなければなりません。電気事業が最大限効率的に行われているかどうか政府の審査が入るため、利用者は安心して電気を利用できます。
経営の中で生まれた利潤は、電気事業のさらなる発展のために活用されます。総括原価方式の無駄のない算定方法は、明瞭な料金設定に繋がっているのです。
電力会社の経営が安定する
総括原価方式は、電力会社側にもメリットをもたらしています。大きな利点は経営の安定化です。
経済産業省令(一般電気事業供給約款料金算定規則)では、事業をより効率的に経営するために必要だと判断された場合、電力会社に対して事業報酬の上乗せが認められています。
電力の供給には、発電所や送電線、変電所などさまざまな設備が必要です。これらの維持・運営には多額の資金がかかるため、電力会社の多くは金融機関からの借り入れや株主から提供される資金提供によって設備を保持しています。
電力会社の事業報酬は、こうした借入金の利息支払いや株主への配当金に充てられます。事業を継続し、利用者への電力供給を安定的に行うためには、しっかりと事業報酬が得られることもまた重要なのです。
電気の安定供給が可能になる
前項でも触れたように、総括原価方式によって電力会社の経営基盤が安定することで、発電所、送電線、配電線などの設備を用意することができ、電気の安定供給が可能になります。
事実、日本は停電が非常に少ない国として知られています。2014年時点、日本における一軒あたりの停電回数は0.16回。これはヨーロッパの先進国やアメリカの主要都市よりも少なく、世界一を誇るアメリカ・ニューヨーク州に次ぐ数値です(※)。
停電の少なさは、日本で提供される電気が高品質であることや、徹底したリスクヘッジに起因しています。例えば配電設備にトラブルが起きた場合、その被害を最小限に抑えるための処置が素早く行われます。
また、電力系統は中央施設で常に監視され、24時間体制で供給システムを制御。これらの充実した管理体制や設備には、電力会社に安定した経営基盤を与える総括原価方式が一役買っていると言えるでしょう。
総括原価方式の問題点
さまざまなメリットを持つ総括原価方式ですが、反面、長年にわたり問題点も指摘されてきました。総括原価方式が抱える問題点とはどのようなものなのでしょうか。
市場競争が働きにくい
前項では、総括原価方式のメリットとして「電力会社の利益が一定保証される」点を挙げました。しかし、これは裏を返せば、他社との競争が起こりにくいということになります。利益が担保されている状態では、事業効率化など経営向上のためのインセンティブが働きにくく、利用者への利益へと繋がりにくい側面があるのです。
市場競争が働きにくい状態では、利用者からの要望が料金プランやサービス内容に反映されにくく、価格が上がりやすくなります。
過去の推移を見ても電気料金は値上げを繰り返し、上昇傾向にあります。こうしたデメリットは総括原価方式の問題点として過去にも取り上げられ、電力小売全面自由化が提案される理由の1つにもなりました。
無駄な設備投資が増える傾向にある
総括原価方式には、無駄な設備投資が増えてしまうというデメリットもあります。
ここで問題となるのは事業報酬の計算方法です。事業報酬は事業者の投資回収や新たな設備に充てられます。つまり、事業資産が多いほど事業報酬も多く加算できるのです。
この仕組みは、電力会社に安定的な経営基盤を与える一方で、不必要な設備投資が増えてしまいがちです。なぜなら、利潤が設備投資に充てられると、その新たな設備を管理維持するために、より多くの資金が必要になるという悪循環が生まれてしまう可能性があるためです。
さらに、無駄な設備投資は電気料金の値上げに繋がります。総括原価方式のデメリットは、電気利用者へと降りかかってしまうのです。
電力自由化の歴史
統括原価方式は、安定した電力供給のために一般電気事業者(大手電力会社)の地域独占を認めていた従来の状況とともにありました。
しかし、地域独占供給を見直す電力小売自由化の流れに伴い、統括原価方式も見直されることとなりました。電力自由化の変遷をたどってみましょう。
1995年:電気事業法改正
電気事業法はこれまでに幾度かの改正を経ています。
1995年の改正では、発電部門への市場原理導入が提言されたことを受け、電力会社への電気の卸売が認められました。この際、電力卸売事業に新たに参入した事業者を独立系発電事業者(IPP: Independent Power Producer)と呼びます。電気調達の選択肢が増えたことが1995年次の改正における大きなポイントです。
さらに、先述のヤードスティック査定や燃料費調整制度を導入。経営効率化制度の見直しも行われました。
2000年3月:電力小売の自由化スタート
電力小売自由化の皮切りとなったのが、2000年の一部解禁です。規模の大きい工場やデパート、ビルといった「特別高圧(原則として契約電力2000kW以上)」を必要とする需要家への電気小売に新規事業者の参入が認められました。この際参入した新規事業者は、特定規模電気事業者(PPS:Power Producer and Supplier)と呼ばれています。
PPSはその後も増え続け、2015年時点で500社を超える事業者が登録されました(※)。
2004年4月、2005年4月:自由化領域の拡大
2000年にはじまった電力小売自由化は、その後も拡大されています。2003年には電気事業法の三次改正が行われ、2004年から2005年にかけて段階的に解禁されることが決定されました。
2004年4月の施行では高圧の大口(500kw以上2000kw未満)の自由化が開始し、全体の約4割が自由化対象に。さらに2005年4月からは高圧の小口(50kw以上500kw未満)の自由化も開始され、自由化対象は全体の6割に及びました。
2016年4月:小売の全面自由化
段階的な拡大を経て、2016年4月からは電力小売の全面的な自由化がはじまりました。低圧を利用する一般家庭や小規模な商店も、自由に電力会社が選択できるようになったのです。
電力小売の全面自由化がスムーズに実現した背景には、2011年の東日本大震災によって国民の電力への関心が高まったことや、政府によってスマートメーターの導入が進められていることがあります。
2021年時点での小売電気事業者は700を超え、新電力のシェアは全体の20%を占めています(※)。
今は電力会社を選ぶことができる!
ここまで解説したように、現在、私たちは電力会社を自由に選択できる立場にあります。
新電力を含め、さまざまな電力会社が多彩な電気料金プランを展開しているので、サービス内容や料金、自身のライフスタイルを踏まえつつ選んでみましょう。
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(30代 / 女性 / 3人暮らし)
基本料金がかからないので、大きいアンペアで契約していてもお得感がある。
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(40代 / 男性 / 1人暮らし)
明らかに他社より安くなるし、色々なイベントもあり楽しい。基本料金が無いのも魅力です。
まずは、電気料金プランを見直して、今の生活のままで電気代が安くなるのか試してみてはいかがでしょうか。