最近は、メディアなどで地球温暖化・気候変動問題とともに「カーボンニュートラル」という言葉を見聞きすることが多くなりました。このカーボンニュートラルというものは、そもそもどういう意味なのでしょうか?
二酸化炭素の排出量を減らすことだろうなとは想像がつくものの、きちんと理解されている方はそれほど多くないかもしれません。この記事では、カーボンニュートラルの基礎知識から解説しますので、今私たちに求められている地球温暖化防止のための課題について考えていきましょう。
カーボンニュートラルの基礎知識
カーボンニュートラルとは一体何なのでしょうか。ここではカーボンニュートラルの基礎知識についてやさしく解説します。
カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルを英語で表記すると「Carbon neutral」、日本語に直訳すると「炭素中立」となります。
環境省はカーボンニュートラルを以下のように定義しています。
“市民、企業、NPO/NGO、自治体、政府等の社会の構成員が、自らの責任と定めることが一般に合理的と認められる範囲の温室効果ガス排出量を認識し、主体的にこれを削減する努力を行うとともに、削減が困難な部分の排出量について、他の場所で実現した温室効果ガスの排出削減・吸収量等を購入すること又は他の場所で排出削減・吸収を実現するプロジェクトや活動を実施すること等により、その排出量の全部を埋め合わせた状態をいう。”
※出典:環境省 カーボン・オフセット / カーボン・ニュートラルとは?
簡単にいうと、温室効果ガスの排出量をできるだけ最小限にして、削減できなかった部分をほかの活動で吸収または除去することで実質ゼロにするということです。
人類は炭素(カーボン)を含む化石燃料を燃やしてエネルギーを得て、発電したり、機械を動かしたりしています。その結果、二酸化炭素(CO₂)などの温室効果ガスを大量に排出することになりましたが、これを最大限削減するとともに、森林を増やす、CO₂を回収する装置を設置するなどして、相殺することが目指されているのです。
この炭素を実質的にゼロの状態にすることをカーボンニュートラルと呼びます。
カーボンニュートラルが重要とされる背景
カーボンニュートラルの実現が叫ばれている背景には、地球温暖化・気候変動が「待ったなし」の状態にまで至っていることが挙げられます。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013~2014年)によると、世界の平均地上気温は、1880年から2012年までの132年間に0.85℃上昇しています。
かつて地球には、氷河期(氷期)と呼ばれる寒い時代があったことが知られています。最近の氷期(ヴュルム氷期)から約1万年かけて世界の気温はゆるやかに上昇してきましたが、この気温上昇速度に比べて産業革命以降の気温上昇速度は約10倍も速いことがわかっています。
※出典:国立環境研究所 地球環境研究センター温暖化の科学Q.14
ここまで地球の平均気温を押し上げた最大の要因は、温室効果ガスの増加です。いくつかある温室効果ガスの中でも、一番問題となるのが二酸化炭素です。人類は18世紀頃の産業革命以来、石油や石炭などの化石燃料を燃やしてエネルギーを得、経済成長を遂げてきました。その結果として、大気中の二酸化炭素濃度は産業革命前に比べて約40%も増加しました。
このまま地球温暖化が進行すると、水資源や自然生態系への影響、自然災害の増大や健康への被害、産業と経済活動への影響が出ると指摘されています。
こうした気候危機を回避するため、二酸化炭素の排出量の大幅削減が求められているのですが、炭素(C=カーボン)を含む化石燃料を燃焼してエネルギーを得る方式そのものをあらためる必要が出てきているのです。
※出典:気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第5次評価報告書第1作業部会報告書(自然科学的根拠)の公表について(環境省)
日本が目指すカーボンニュートラルとは
2020年10月26日開かれた第203回国会において、菅義偉内閣総理大臣(当時)は所信表明演説の中で次のように述べました。
「わが国は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指すことを、ここに宣言いたします。」
これを受けて、地球温暖化対策推進法が2021年4月に改正され、2050年までの温室効果ガス排出ゼロの実現が法律に明記されるようになりました。仮に政権交代が起きたとしても、この政策は継続されることになります。
実質ゼロを目指すのは、CO₂だけに限りません。温室効果ガスであるメタン、N₂O(一酸化二窒素)、フロンガス(ハイドロフルオロカーボン類、パーフルオロカーボン類、六フッ化硫黄、三フッ化窒素)を対象にしています。
また実質ゼロという意味は、排出量から吸収量と除去量を差し引いた合計をゼロにすることを意味します。CO₂排出量をゼロにすることが難しい分野が多くあります。そこで削減が難しい排出分を埋め合わせるために、吸収や除去を行うことになります。例えば、植林を進めることにより、光合成に使われる大気中のCO₂の吸収量を増やすことなどが考えられます。
※出典:令和2年10月26日 第二百三回国会における菅内閣総理大臣所信表明演説 | 令和2年 | 総理の演説・記者会見など | ニュース | 首相官邸ホームページ
カーボンニュートラルの実現はいつまでに行う?
2015年フランスのパリで開催された「国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(通称COP21)」において、気候変動に関する新たな国際的枠組みとなる「パリ協定」が採択されました。
このパリ協定では、次のような世界共通の長期目標が掲げられています(※1)。
- 世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力をする
- できるかぎり早く世界の温室効果ガス排出量をピークアウトし、21世紀後半には温室効果ガス排出量と(森林などによる)吸収量のバランスをとる
世界の平均気温を1.5℃プラスに抑える努力目標を達成するために、21世紀後半までに「バランスをとる」=「カーボンニュートラル」を実現するということです。
国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「IPCC1.5度特別報告書」によると、産業革命以降の温度上昇を1.5℃以内に抑えるという努力目標を達成するためには、2050年近辺までのカーボンニュートラルが必要という報告が出されました(※2)。
気候変動への取り組みの盛り上がりも手伝って、世界的に「2050年までのカーボンニュートラル実現」のムーブメントが広まっていきました。
※1 出典:パリ協定の概要(仮訳)(環境省)
※2 出典:1.5℃特別報告書 政策決定者向け要約(SPM)の概要(環境省)
カーボンニュートラルを目指している国はどのくらいある?
それではカーボンニュートラルを目指している国は世界でどれくらいあるのでしょうか。2021年1月20日時点では、日本を含む124か国と1地域が、2050年までのカーボンニュートラル実現を表明しています。
世界全体のCO₂排出量に対し、表明している国の割合は37.7%です(2017年のエネルギー起源CO₂のみを対象)。
なお中国は2060年までのカーボンニュートラル実現を表明しており、これを含めると全世界の約3分の2を占めることになります。
※出典:「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
脱炭素社会に向けた日本の取り組み
もはや世界のトレンドとなったカーボンニュートラル=脱炭素化社会ですが、わが国の取り組みはどうなっているのでしょうか。脱炭素社会に向けた日本の取り組みについてご紹介します。
2030年までが重要とされている
環境省は2021年6月、「地域脱炭素ロードマップ ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~」を策定し、今から脱炭素へ移行していくための行程と具体策をまとめました。
地域脱炭素ロードマップでは、これから5年間の集中期間に政策を総動員して①少なくとも100カ所の脱炭素先行地域を創出し、②重点対策を全国津々浦々で実施することで「脱炭素ドミノ」により全国に伝搬させていくこと、としています。
それらの目標年度を2030年度とし、そこへ向けての基盤的施策が進められています。
※出典:地域脱炭素ロードマップ ~地方からはじまる、次の時代への移行戦略~
脱炭素の基盤となる8つの重点対策
地域脱炭素ロードマップでは、重点対策として8つ取り上げています。
屋根置きなど自家消費型の太陽光発電
建物の屋根などに太陽光発電設備を設置し、屋内や電気自動車で自家消費します。自家消費型の太陽光発電は、送電線を通じた電力供給よりも環境負荷が小さく、料金が安いケースも増えています。また、蓄電池と組み合わせることで、災害時や悪天候時の非常用電源を確保することができます。
地域共生・地域裨益(ひえき)型再エネの立地
「裨益」とは利益の意味です。一次産業と再エネを組み合わせることにより、土地の有効活用、地元企業による施工、収益の地域への還元、災害時の電力供給など地域の社会経済活性化のための再エネの開発を行います。そのために、地域の再エネポテンシャルを最大限活かす導入目標を設定し、地域協議会の開催を主体的に進めます。
公共施設や業務ビルなどにおける徹底した省エネと再エネ電気調達と更新や改修時のZEB化誘導
庁舎や学校などの公共施設において、省エネを徹底しつつ、再エネ設備や再エネ電気を効率的に調達します。建物の更新や改修に際しては、省エネ性能の向上を図りながら、再エネ設備や蓄エネ設備(電気自動車を含む)を導入し、建物で消費するエネルギーの収支をゼロにすることを目指します。
住宅・建築物の省エネ性能などの向上
家庭の最大のCO2排出源の一つである「冷暖房の省エネ」と、健康で快適な住まいの確保のための「住宅の断熱性・気密性の向上」を図ります。また、住宅の再エネ設備や蓄エネ設備(電気自動車を含む)をネットワーク化することで電力需給の調整に活用することができ、地域の災害対応能力強化にもつながります。
ゼロカーボン・ドライブ(再エネ×EV/PHEV/FCV)
再エネ電力と電気自動車を活用する「ゼロカーボン・ドライブ」を普及させ、自動車による移動を脱炭素化します。電気自動車を「動く蓄電池」として使用して、自家発電再エネ比率を向上させ、災害時には非常用電源として活用します。
資源循環の高度化を通じた循環経済への移行
プラスチック資源の分別収集、食品ロス削減推進計画にもとづく食品ロス半減、食品リサイクル、家庭ごみ有料化の検討・実施、有機廃棄物の地域資源としての活用、廃棄物処理の広域化・集約的な処理などを地域で実践します。
コンパクト・プラス・ネットワークなどによる脱炭素型まちづくり
都市のコンパクト化とゆとりある空間形成により、車中心から人中心の空間へと転換します。これとともに、公共交通の利用促進と脱炭素化を進めます。スマートシティの社会実装化、デジタル技術の活用を通じて都市機能を高め、その最大限の利活用を図ります。
食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立
営農型太陽光発電、バイオマス、小水力発電など地域に根ざした再生可能エネルギーを活用しつつ、生産、加工、流通、消費の流れ全体において、環境負荷の軽減や地域資源の最大活用を実現して、持続可能な食料システムを構築します。
3つの基盤的な施策
ロードマップでは8つの重点対策に続いて3つの基盤的施策を掲げています。
地域の実施体制構築と国の積極支援
脱炭素化社会は、地域と国が一体で取り組む必要があります。そのためには地域のあらゆる主体、地方自治体、金融機関、中核企業などが参画することが求められます。そのための人材確保や資金調達などのため、国が積極的に支援します。
グリーン×デジタルによるライフスタイルイノベーション
国民がライフスタイルの中で、自然と脱炭素に貢献する製品・サービスの使用など脱炭素行動を選択できる社会の実現を目指します。
社会全体を脱炭素に向けるルールのイノベーション
再生可能エネルギーなどは導入に時間を要する場合があります。また住宅、建築物、インフラの更新については法令上の制限がネックになることもあります。それらの制度改革などにより、実効性を確保します。
100カ所の脱炭素先行地域
ロードマップでは「脱炭素先行地域」をつくることが提唱されています。これは脱炭素に向かう先行的な取り組みを実行するモデル地域で、少なくとも2030年度までに100カ所の設置が目指されています。
ここでは地域課題を解決しつつ住民の暮らしの質の向上を実現しながら、脱炭素に向かう取り組みの方向性を示すものと位置づけられています。
主な取り組み内容としては、次のようなことが列挙されています。
再エネポテンシャルの最大活用による追加導入
太陽光発電などはすでに全国的に導入が進んでいますが、地域内の資本の活用などによって、地域内の再エネポテンシャルを最大限活用することで、再エネ発電設備を追加で導入する方向が目指されています。
再生可能エネルギー熱や未利用熱、カーボンニュートラル燃料の利用
これまであまり導入が進んでいない太陽熱利用などの再生可能エネルギー熱や、再エネ由来水素、合成燃料などの化石燃料に代替する燃料の利用を進めます。
地域の自然資源などを活かした吸収源対策など
森林にはCO₂吸収能力があります。森林や里山、都市公園、緑地など地域の自然資源を適切に整備・保全することで、林業を活性化しつつ、木材資源を活用して炭素の長期貯蔵を図ります。
脱炭素社会に向けたその他の取り組み
「地域脱炭素ロードマップ」を中心に見てきましたが、ここからはそれ以外のカーボンニュートラルのための取り組みをご紹介しましょう。
再生可能エネルギーの導入
カーボンニュートラルを実現するためには、エネルギー供給の低炭素化・脱炭素化が必須となります。つまり電力供給における脱炭素化=電源の非石化です。
そのためには再生可能エネルギーの導入量をさらに拡大させることが必要になります。太陽光、風力、水力、地熱、太陽熱などの再生可能エネルギーは、発電時にCO₂を排出せず、建設時や廃棄時を含めた発電設備のライフサイクルを通しても排出されるCO₂の量が非常に少ないことがわかっています。
次世代エネルギーの候補である水素エネルギーも、注目すべき新エネルギーとして研究が進められています。水素は酸素と結合して発電したり、燃焼させて熱エネルギーとして利用したりできます。その際、CO₂を排出しません。
省エネルギー・エネルギー効率の向上
カーボンニュートラル実現にとって、エネルギー供給の脱炭素化とともに重要なのがエネルギー消費量の削減です。エネルギーの脱炭素化というのは大変な道のりで、一朝一夕でできるものではありませんが、エネルギー消費量を減らすことはすぐにできます。
こまめに電気を消す、エアコン温度の設定温度を適切にするなどがすぐに思いつくかもしれません。ほかにも白熱灯をLED照明に取り替える、古い冷蔵庫を最新式の省エネ型冷蔵庫に買い替えることによってもエネルギー消費を抑えることができます。
ただし、どんなに省エネに励んでも、エネルギー消費量をゼロにすることはできません。省エネは、ほかの方法と組み合わせて行うことが求められるのです。
火力発電の効率をアップさせる
発電時に大量のCO₂を排出してしまう火力発電所ですが、日本のエネルギー事情を考えると、全廃することは現実的ではありません。
火力発電の中でも石炭火力発電は、LNGに比べてもCO₂の排出量が多く、何かと悪者にされがちです。そのため現在では石炭火力発電の効率をアップさせる研究が進んでいます。燃料使用量の削減はCO₂排出量の削減につながるため、高効率化に向けたさまざまな技術開発が行われているのです。
現在進められている最新技術には以下のようなものがあります。
超々臨界圧発電方式(USC)
石炭を燃やしてつくる蒸気を極限まで高温、高圧にして蒸気タービンを回すシステムです。従来に比べて燃料使用量が少なくすみ、CO₂排出量も削減できます。
コンバインド・サイクル発電
ガスタービンと蒸気タービンを組み合わせた二重の発電方式です。最初に圧縮空気の中で燃料を燃やしてガスを発生させ、その圧力でガスタービンを回して発電を行います。
石炭ガス化複合発電(IGCC)
石炭をガス化して、コンバインド・サイクル発電でガスタービンを回すのに使われる「高温ガス」をつくるシステムです。
植林の推進
森林にはCO₂の吸収能力があります。地球上のCO₂循環の中で、森林が吸収源として大きな役割を果たしています。
森にある樹木は、大気中のCO₂を吸収して光合成を行い、炭素を有機物として幹や枝などに蓄えて成長します。一方で、樹木は動物と同じように呼吸をしてCO₂を吐き出してもいます。それでも光合成で吸収するCO₂の方が呼吸によって出されるCO₂より多いので、差し引きすると「樹木はCO₂を吸収している」ことになります。
植林を推進することで、新しいCO₂吸収源をつくることができます。また今ある森を適切に管理・育成すること、下刈りや除伐、間伐を行うことが重要です。
CO₂を回収する技術を活用する
カーボンニュートラルを実現するにあたって、どうしても脱炭素化できない部門や、CO₂の削減に膨大なコストがかかってしまう部分もあることも事実です。またエネルギー供給以外の温室効果ガス排出もありえます。
そうした課題を解決するために、大気中に存在する二酸化炭素を回収して貯留する技術が模索されています。この技術を「ネガティブエミッション技術」といいます。
ネガティブエミッション技術にはDACCS(Direct Air Carbon dioxide Capture and Storage)とBECCS(BioEnergy with Carbon Capture and Storage)があります。
二酸化炭素削減に役立つ技術「CCS」の実態と今後の課題については、こちらの記事で詳しく紹介していますので合わせてご覧ください。
⇒二酸化炭素削減に役立つ技術「CCS」の実態と今後の課題
DACCS
DACCSとは、直接空気回収と二酸化炭素回収・貯留を組み合わせたもので、大気中からCO₂を永続的に除去し、CO₂の排出量をマイナスにする仕組みです。
BECCS
バイオマスを利用した場合はCO₂排出量が実質ゼロと考えることができます。そのためバイオマスの燃焼によって排出されたCO₂を回収し、地中などに貯留すれば、ネガティブエミッションになります。
1人ひとりの取り組みがカーボンニュートラルにつながる
地球温暖化・気候変動問題に部外者はいません。私たちの1人ひとりが当事者です。1人ひとりの取り組みがカーボンニュートラルを実現させていくことになるのです。
私たちのライフスタイルが地球の未来を左右することになります。例えば、発電時にCO₂を排出しない再生可能エネルギーによる電気を使う、そんな生活がカーボンニュートラルを引き寄せることにつながります。
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