環境問題の例として挙げられることが多い「オゾン層の破壊」。1970年代にはその可能性が指摘され、1980年代には実際にオゾンホールが観測されました。自然環境だけでなく、人体への影響が懸念されることから、世界的な問題に発展しています。
オゾン層の破壊を食い止めるため、長らく国内外でさまざまな取り組みが行われてきましたが、果たして状況は改善されたのでしょうか。
この記事では、オゾン層の基本的な仕組みと現状、また、地球温暖化との関係についても解説します。
オゾン層とは
オゾン層は、人間や環境にとって重要な存在です。まずは、オゾン層の仕組みや役割について、見ていきましょう。
オゾンとオゾン層
「オゾン(O₃)」とは、酸素原子(O)が3つ結びついた分子の総称です。雷の放電や紫外線から発生し、私たちの周りにもごく低い濃度で存在しています。
オゾンの特徴は、高い酸化力です。特有の臭気を持っていますが、オゾンの酸素分子は細菌の細胞膜や悪臭の原因物質と結びつきやすいため、殺菌・脱臭などに効果的であるとされています。
また、オゾンは不安定で、時間とともに酸素(O₂)に変わるのも特徴です。残存しにくいこと、酸化の際に有害物質を放出しないことから、食品から下水処理まで広く利用されています。
このオゾンが、地上から約10~50km上空の成層圏で層を成したものが「オゾン層」です。地上で集めた場合は3mm程度にしかならないこの層は、約90%がオゾンで構成されています。(※1)
約46億年前に誕生した地球には、生物はおろか、水や酸素も存在していませんでした。オゾンが生成されはじめたのは約27億年前。光合成を行うバクテリアが誕生したことで、有機物や酸素(O₂)が生成されはじめます。排出された酸素の一部が太陽からの紫外線で化学反応を起こし、オゾンが生まれました。(※2)
増え続けたオゾンは大気上空で層を形成し、地球を覆うようになります。このオゾン層こそが、生物の進化に大きく寄与することとなるのです。
オゾン層の役割
オゾン層の最大の役割は、太陽から届く紫外線をカットすることにあります。
紫外線にはUV-A、UV-B、UV-Cの3種類が存在しますが、このうち生物に特に有害とされているのがUV-BとUV-C。UV-Bは細胞のDNAを傷つけるため、動植物の発育を妨げ、皮膚がんや白内障の発症を増加させます。また、UV-Cは「殺人光線」とも呼ばれる、非常に危険性の高い紫外線です。オゾン層は、UV-Cを完全に吸収し、UV-Bも大部分を吸収します。
オゾン層ができたことで、海の生物が進化して陸上に進出できる環境になりました。
また、オゾン層は紫外線を吸収した際に熱を発します。そのため、オゾン層のある成層圏とその下の対流圏で熱の勾配が生じるため、暖かい空気が上層に留まることで成層圏およびオゾン層を維持しているのです。
オゾン層の破壊とは
オゾン層は地球を包み、太陽から届く有害な紫外線を防いでくれています。このオゾン層がなぜ破壊されるようになってしまったのでしょうか。また、オゾン層が破壊されると、どのような影響があるのでしょうか。
オゾン層破壊の発見
1974年、アメリカの化学者フランク・シャーウッド・ローランドは、ある物質がオゾン層を破壊することを指摘しました。その物質とは、クロロフルオロカーボン(CFC)をはじめとする「フロン」。ローランド教授は、オゾン層破壊のメカニズムを発見した功績が認められ、1999年にノーベル化学賞を受賞しています。
当時は、電化製品やスプレーなどに大量に使用されていました。しかし、産業で幅広く利用されているフロンを規制すれば、経済に大きな影響を与えるとされ、すぐに大規模な対策が取られることはありませんでした。
問題の深刻さが明らかになったのは、オゾン層が実際に観測された1982年。日本の南極観測隊が、南極上空のオゾン層が極端に減少していることを確認。イギリスの観測所も同様の報告をしています。
さらに1985年には、アメリカの人工衛星から送られたデータから、オゾン層の薄い部分が穴のように見える、いわゆる「オゾンホール」が確認されました。もはやオゾン層の破壊は疑う余地がなく、世界的な問題として認識され、早急な対策が協議されることになります。
オゾン層破壊の原因
オゾン層破壊の原因物質である「フロン」には、主に以下が含まれます。炭素(C)やフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)などからなる物質です。
- クロロフルオロカーボン(CFC)
- フルオロカーボン (FC)
- ハイドロクロロフルオロカーボン (HCFC)
- ハロン
オゾン層への影響が問題となるまで、これらはエアコンや冷蔵庫の冷媒、電子部品の洗浄、発泡スチロールの発泡剤、スプレーの噴射材など多岐にわたって使用されていました。
1987年に採択された「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」では、CFC、HCFC、ハロン、四塩化炭素、1,1,1-トリクロロエタン、HBFC、ブロモクロロメタン、臭化メチル(※)などが規制対象となっています。
さらに、2019年に発効された「キガリ改正」では、代替品であったハイドロフルオロカーボン(HFC)も大幅に規制されています。HFCはオゾン層の破壊にはつながりにくいものの、地球温暖化の原因である温室効果ガスに分類されるためです。
オゾン層が破壊される仕組み
オゾン層破壊が指摘されるまでは、フロンは冷蔵庫やエアコン、スプレーなどに大量に使用され、空気中に放出されていました。
フロンは地上や対流圏では分解されにくいため、大気の流れに乗り、さらに上空のオゾン層がある成層圏に達します。成層圏では太陽からの強い紫外線が届くため、ここでフロンがはじめて分解されます。この際、放出される塩素(Cl)がオゾンと化学反応を起こし、オゾン層を分解してしまうのです。
フロンのなかでもオゾン層への影響が強いとされる「トリクロロフルオロメタン(CFC-11)」を例にとりましょう。紫外線に分解されたときの化学式は以下の通りです(※)。
CCl₃F+hν(200nm~220nm) → CCl₂F+Cl
紫外線によって、CFC-11はジクロロジフルオロメタン(CCl₂F)と塩素(Cl)に分解されます。1回の反応で放出される塩素分子は1つですが、CCl₂Fもやがては塩素(Cl)などになり、オゾン層を破壊します。
さらに、塩素原子は不安定で、ほかの物質と非常に反応しやすいのも特徴です。この性質から、1個の塩素原子が破壊するオゾン分子は数万個にのぼるとされています。
また、消火剤などに使用されるハロンは、成層圏で分解されると臭素原子(Br)を放出します。臭素原子はオゾン層の破壊効率で塩素原子を上回りますが、大気中の濃度がそれほど濃くないため、塩素原子ほどの影響力は認められていません。
オゾン層破壊によって起こる影響
地球を紫外線から守るオゾン層。フロンガスによって破壊が進むと、人間の体や動植物に重大な健康被害を及ぼします。具体的な影響について、次から見ていきましょう。
人体への健康被害
まず挙げられるのが、紫外線UV-Bによる皮膚へのダメージです。いわゆる「日焼け」は、シミやしわなどの原因になることで知られています。日焼け止めや日傘で、ある程度は防げるものの、ダメージが進むと炎症や水ぶくれなどの急性障害を起こすので注意が必要です。
UV-Bは細胞内のDNAを傷つける、強いエネルギーを持った紫外線です。体にはDNAの損傷を修復する力が備わっていますが、繰り返すと、誤った遺伝情報を持った細胞が生まれてしまいます。これは遺伝子突然変異と呼ばれ、悪性腫瘍につながる恐れがあるとされています。(※)
また、UV-Aも無害ではありません。近年ではUV-Bよりも細胞の奥深くに届き、肌の弾力などに悪影響を与えることが分かっています。
紫外線は、目の健康にも関係しています。「雪目」の名称でも知られる紫外線角膜炎は、スキー場や海水浴場で紫外線に長時間さらされたときに発症します。また、目の水晶体が濁る白内障においては、UV-Bが危険因子の1つです。
ほかにも、免疫機能の低下など、紫外線の浴びすぎは体のさまざまな不調や病気のリスクとなり得ます。オゾン層の破壊によって、より多くのUV-AやUV-Bが地上に届けば、それらの危険性はさらに高まると懸念されているのです。
動植物への影響
オゾン層破壊は、人間以外の生物も無関係ではありません。
先ほども触れた通り、UV-BはDNAを傷つける強力な紫外線です。大部分がオゾン層で遮られているものの、オゾン層の破壊が進めば、以前より多くのUV-Bが地上に降り注ぐことになります。そうなれば、陸上の動植物や海中生物の生育、生態系にも影響が及びます。
オゾン層破壊と地球温暖化
オゾン層破壊と地球温暖化は、どちらも深刻な環境問題です。しかし、2つにはさほど大きな相関関係はないとされています。
世界の平均気温が上昇してしまうのが、地球温暖化です。氷河が溶け出して各地の水位が上がったり、異常気象が起きたりと、自然環境に大きな影響を及ぼします。
オゾン層が破壊されれば、地上に届く太陽光エネルギーが増大し、気温がさらに上昇すると予測する人もいるでしょう。しかし、実際の増加は0.01%程度。(※1)温暖化の主原因である温室効果ガスに比べれば、ごく小さな影響です。
一方で、オゾン層自体も温室効果を持っています。オゾン層の破壊が進めば、地球上の気温は下がると理論上は考えられますが、こちらも極めて小さな変動に留まります。
オゾン層破壊が及ぼす地球温暖化への影響は、ごく小さなものです。しかし反対に、地球温暖化が原因でオゾン層の状態が変わることがあります。
その要因として挙げられるのが、成層圏の温度変化です。地球温暖化によって地上や対流圏が温められると、反対に成層圏の温度は下がります。この際、フロンやハロンといったオゾン層破壊物質の量が多い状態だと塩素や臭素との化学反応が進み、オゾン層の破壊も加速します。
また、気温が上がることで大気の循環力が強まると、各地域でオゾン量の差がより大きくなることも分かっています。
さらに、オゾン層破壊の主な原因物質であるフロンガスが、「温室効果ガスでもある」ことも見逃せません。近年では、オゾンを破壊しない代替フロンもまた、高い温室効果があることが判明しています。(※2)このことから、オゾン層の保全、地球温暖化対策の2つに有効な新しい代替物質への切り替えが必要とされているのです。
オゾン層破壊と地球温暖化は、直接的な関係はないものの、どちらも改善に向けて対策が急がれる問題です。どちらか一方の解決を優先するばかりでは、環境問題は改善したとは言えないでしょう。
現在のオゾンホールの状況
南極のオゾンホールは1980年代から1990年代半ばにかけて急激に拡大。(※1)一時期はかなり深刻な状況に置かれていました。
しかし、1985年には「オゾン層の保護のためのウィーン条約」、1987年には「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書」が締結。(※2)その後の改正でもさらにフロンの規制が進むなど、国際的な努力が行われました。取り組みの甲斐があり、破壊されたオゾン層は回復しはじめています。
1990年代半ば以降からは、長期的な拡大傾向は見られなくなりました。また、オゾン層破壊物質の濃度はピークを過ぎた1990年代以降、緩やかに減少しています。(※1)
さらに、南極オゾンホールの年最大面積は2000年以降、縮小傾向にあることが観測から分かっています。(※1)
しかし、問題のすべてがクリアされたわけではありません。オゾン層破壊物質の濃度は依然として高く、南極上空に大きなオゾンホールが観測される年もあります。(※2)
世界気象機関(WMO)および国連環境計画(UNEP)の報告によると、南極上空のオゾン層が1980年ごろの状態まで回復するのは、21世紀半ば以降。一旦悪化した環境を元に戻すことは、容易ではありません。
とはいえ、オゾン層破壊の問題が解決に向かっていることは事実です。地球温暖化や気候変動など、環境の諸問題もまた、国際的な取り組みによって着実な改善が求められています。
そのためには、国や企業の取り組みだけでなく、私たち1人ひとりが当事者意識を持って、環境問題について知ることも大切です。
地球の環境問題に気を配ろう
オゾン層の破壊問題においては、国際的な世論の盛り上がりに加え、それを背景にした取り組みが、比較的早期の解決につながりました。
しかし、環境問題は1つではありません。いま私たちが直面している地球温暖化も、国際的な取り組みが求められる重大な問題です。
個々ができる取り組みの1つとして、「温室効果ガスを排出しない電気」を選ぶことも大切です。2016年に電力小売全面自由化が開始されてからは、消費者が「どのようなエネルギーで発電した電気なのか」という観点から電力会社を選ぶことができるようになりました。
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Q オゾン層の役割とは?
オゾン層の最大の役割は、太陽から届く紫外線をカットすることにあります。
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Q オゾン層破壊によって起こる影響は?
オゾン層が破壊されると人体への健康被害や動植物への影響が考えられます。皮膚へのダメージや目の健康、免疫機能の低下などが懸念されています。