「温対法の一部改正案が今年5月26日に成立」という報道がありました。「温対法の一部改正って何だろう」「私たちの生活には関係があるのだろうか」と思った方も多いのではないでしょうか。
そもそも温対法とは何のことであり、何が改正されたのでしょうか。この改正で今後私たちの生活にどのような影響があるのかについて、詳しく解説します。
温対法とは
温対法とは、正式名称を「地球温暖化対策推進法」といいます。二酸化炭素(CO₂)など温室効果ガスによる地球温暖化を防止するために、国内における対策を推進する目的で1998年(平成10年)10月に制定されました。
成立の経緯
1997年に京都で国連気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)が開催され、「京都議定書」が採択されました。京都議定書は先進国全体に対して、温室効果ガスを2008年から2012年の間に1990年比で少なくとも5%削減を目指すとともに、国ごとに温室効果ガス排出量の削減目標を定め、日本は6%の削減を約束しました。
これを受けて、国、地方自治体、事業者、国民が一体となって地球温暖化対策に取り組むため、政府は1998年10月に地球温暖化対策推進法を制定しました。
温対法改正の流れ
日本は2002年(平成14年)6月京都議定書を締結するとともに、議定書目標達成計画の策定、必要な体制整備、温室効果ガス抑制策などを内容とする温対法の最初の改正を行いました。
その後2015年にフランス・パリで開催されたCOP21で、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」というパリ協定が採択されました。
日本では、2020年10月の臨時国会で菅義偉首相(当時)が、温暖化効果ガスの排出を2050年までに実質ゼロとする「2050年カーボンニュートラル」宣言を行い、これを受けて、2021年5月に7度目の温対法改正が行われました。
パリ協定については、こちらの記事で詳しく紹介していますので合わせてご覧ください。
⇒パリ協定とは?世界で取り組む温暖化対策
なぜ地球温暖化への対策が必要なのか
では、なぜ地球温暖化への対策が必要なのでしょうか。
国連の組織である気候変動に関する政府間パネル(IPCC)がまとめた2018年発表の特別報告書によれば、世界の平均地上気温は人間の活動によって、産業革命前に比べ2017年時点で約1℃上昇していて、現在ペースで気温が上昇すれば、2030年から2052年の間に気温は1.5℃上昇に達する可能性が高いとしています。
このような温暖化が続いた場合、海氷やグリーンランドの氷河が溶けて今世紀末には海面が最大82cm上昇、毎年高潮で浸水を受ける人口が7500万~2億人増加することをIPCC第4次報告書が指摘しています。また多くの生物が絶滅に近づき、マラリアなどの感染症の拡大、降雨パターンの変化、内陸部の乾燥化、熱帯性低気圧の猛威などによる被害の増加、穀物生産の減少による深刻な食糧難などが予測されています。
このため2015年に世界の約200カ国が合意して成立したパリ協定の目標では、世界の平均気温上昇を産業革命前に比べ2℃より十分低く抑え、1.5℃に抑える努力をすることになっています。このパリ協定の目標である2℃未満の達成には2075年に脱炭素化、1.5℃に抑えるには2050年に脱炭素化する必要があるとされています。
改正の3つのポイント
地球温暖化対策推進法の一部改正案が、2021年5月に成立、6月に公布されました。この温対法改正のポイントは、基本理念の新設、地域での温暖化対策の促進、企業の脱炭素化経営の促進の3点です。
1.2050年までの脱炭素社会の実現を基本理念に
今次の温対法改正のポイントの1つは、CO₂をはじめとする温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引いてゼロを達成するとした2020年10月の「2050年カーボンニュートラル」宣言や、2015年のパリ協定の目標が基本理念として法に明記されたことです。
新設された基本理念では、パリ協定において世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも2℃高い水準を十分に下回るように抑え込むこと、1.5℃高い水準までに制限する努力を継続するとされていることを踏まえて、国民、国、地方公共団体、事業者、民間団体などが密接な連携のもとに2050年までに脱炭素化社会の実現を行うとしています。
条文は以下の通りです。
第二条の二 地球温暖化対策の推進は、パリ協定第二条1(a)において世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏二度高い水準を十分に下回るものに抑えること及び世界全体の平均気温の上昇を工業化以前よりも摂氏一・五度高い水準までのものに制限するための努力を継続することとされていることを踏まえ、環境の保全と経済及び社会の発展を統合的に推進しつつ、我が国における二千五十年までの脱炭素社会の実現を旨として、国民並びに国、地方公共団体、事業者及び民間の団体等の密接な連携の下に行われなければならない。
※出典:e-Gov法令検索 地球温暖化対策の推進に関する法律
このように2050年までのカーボンニュートラルの実現が明記されたことによって、今後、政権が変わってもこの政策の継続が約束されたことになり、国民や自治体、事業者などによる地球温暖化対策が加速されることが期待されます。
2.地方創生につながる再エネ導入を促進
地方公共団体ではこれまで温暖化対策を推進するために実行計画を策定することが求められてきましたが、再生可能エネルギー事業に関する地域トラブルも見られるなど地域における合意形成が課題となっていました。このため今回の改正では、実行計画の実効性を高めるため、再エネ利用促進などの施策の実施に関する目標が追加されました。
また都道府県の実行計画では地域の自然的社会的条件に応じた環境の保全に配慮し、省令により促進区域の設定に関する基準を定めることができることになりました。
条文は以下の通りです。
第十九条 国は、温室効果ガスの排出の量の削減等のための技術に関する知見及びこの法律の規定により報告された温室効果ガスの排出量に関する情報その他の情報を活用し、地方公共団体と連携を図りつつ、温室効果ガスの排出の量の削減等のために必要な施策を総合的かつ効果的に推進するように努めるものとする。
2 都道府県及び市町村は、単独で又は共同して、地球温暖化対策計画を勘案し、その区域の自然的社会的条件に応じて、温室効果ガスの排出の量の削減等のための総合的かつ計画的な施策を策定し、及び実施するように努めるものとする。※出典:e-Gov法令検索 地球温暖化対策の推進に関する法律
地域脱炭素化促進事業を行おうとする者は、事業計画を策定し市町村の認定を受けることができ、事業計画によって行う地域脱炭素化促進施設の整備では、関係許可手続きのワンストップ化などの特例を受けることができます。
事業者にとっても、今回の改正は再エネ事業への取り組みが円滑になり、再エネ導入も容易になるので一石二鳥と言えます。
3.企業の温室効果ガス排出量情報のオープンデータ
温対法では、一定以上の温室効果ガスを排出する事業者の排出量の報告が義務付けられていましたが、紙媒体での報告が基本となっていたため公表まで約2年必要でした。
今回の改正では、透明性の高い形での見える化を促進するため、電子システムによる各事業所管轄の大臣への報告を原則にし、事業所ごとの排出量の情報などを遅滞なく公表することになりました。これによって報告から公表までの期間が1年未満に短縮される方針です。
条文は以下の通りです。
第二十六条 事業活動に伴い相当程度多い温室効果ガスの排出をする者として政令で定めるものは、毎年度、主務省令で定めるところにより、主務省令で定める期間に排出した温室効果ガス算定排出量に関し、主務省令で定める事項を当該特定排出者に係る事業を所管する大臣に報告しなければならない。
※出典:e-Gov法令検索 地球温暖化対策の推進に関する法律
また事業所ごとの排出量を閲覧するには開示請求手続きが必要でしたが、今回の改正により開示請求制度は廃止され、事業所単位の排出量はすべてオープンデータ化されるので、誰でもアクセスして閲覧できます。
条文は以下の通りです。
第二十九条 環境大臣及び経済産業大臣は、前条第一項の規定により通知された事項について、環境省令・経済産業省令で定めるところにより電子計算機に備えられたファイルに記録するものとする。
※出典:e-Gov法令検索 地球温暖化対策の推進に関する法律
これによって事業者に対するステークホルダーからの視線も強まるので、企業の温室効果ガス削減への意識が高まり、積極的な削減施策の実行が期待でき、報告する側と情報を利用する側の双方の利便性も向上します。
温対法改正で今後どう変わるのか
温対法改正により、今後何が変わるのでしょうか。政府の数値目標が明確にされたことから、地方創生につながる再エネ導入のスピード化や脱炭素化投資の促進、ライフスタイルの変化などが予想されます。
再エネ導入の促進
今回の温対法の改正により、地域の求める方針に適合する再生可能エネルギー導入事業を市町村が認定する制度が導入されました。これによって地方創生につながる再エネ事業について市町村の関与の下、地域で合意形成が図りやすくなり、今後さらに再エネの導入が進むと考えられます。
特に地域で利用しているエネルギーのほとんどは化石燃料に依存しており、地域再エネの導入拡大が期待されます。しかし再エネではコストや適地の確保、環境との共生など課題が山積している現状もあり、地域の企業や地方自治体が中心になり、地域資源である再エネなどを有効利用することが重要になります。
そうしたなかで、期待される再エネ事業の1つが、企業の自家消費型太陽光発電所の導入です。自家消費型太陽光発電は、自社の太陽光発電システムで発電した電気を自社の工場や店舗などで使用するもので、発電した電気をすべて電力会社に売る「全量売電型」と違い、自社使用分の電気料金を削減することができます。
このような企業が事業活動における使用電力を100%再生可能エネルギー電力で賄うことを目指す国際的なイニシアチブがRE100です。2021年11月時点で、RE100への参加企業は世界で300社を超えます。今後、さらに再エネ100%に向けた企業の取り組みが活発化すると見られています。
また、株式会社Looopが埼玉県さいたま市で事業構築を手がける「エネプラザ」では、街区内で太陽光発電により生み出された電気の供給からシェア、マネジメントまでを行う分散型エネルギーシステムが構想されています。
これは、太陽光パネル、蓄電池、電気自動車、ハイブリッド給湯器を駆使して、①各家庭の太陽光発電で発電した電気を一度一箇所に集めてから再分配する、②太陽光が余っているときに蓄電して、足りないときに放電する、③太陽光が余っているときの電気料金を安くして消費を促す、④太陽光が余っているときに給湯器でお湯を沸かす、という4つの方法によって、再エネだけで消費の6割程度を賄うことが可能になるシステムです。
⇒エネプラザについて詳しく見る
脱炭素化投資の加速
これまでの温対法改正では政府の数値目標が明記されたことがなく、今回の改正で初めて明文化されました。これにより政府は再エネ導入など脱炭素化へ向けた取り組みを加速させています。
企業もカーボンニュートラルが現実目標となったことで、生き残りをかけて温室効果ガス排出ゼロへの設備投資を進め、その脱炭素の事業を営む企業への投資が進むことが予想されます。欧米など多くの国や地域で、持続可能で脱炭素な方向の復興(グリーンリカバリー)が重視され、電動車(電気自動車、プラグイン・ハイブリッド自動車、燃料電池自動車)への移行などが加速しています。
地域でも、脱炭素の早期実現が重要です。その先行的な取り組みが、地方自治体による2050年二酸化炭素排出実質ゼロ表明、すなわちゼロカーボンシティです。環境省によれば、2021年10月時点で479自治体(40都道府県、287市、12特別区、116町、24村)、表明自治体人口では1億1,177万人と急拡大しています(※)。
政府はこうした動きをさらに拡大する脱炭素ロードマップを作成中で、2021年4月に国・地方脱炭素実現会議が示した地域脱炭素ロードマップ骨子案では、脱炭素を実現する脱炭素先行地域を100カ所つくり、今後5年程度を集中期間として脱炭素のモデルケースを各地に創り出して先行地域を広げていく「脱炭素ドミノ」を実現する方針です。
こうした脱炭素施策が全国で実施されれば、例えば、小中学校での太陽光発電、省エネ住宅の普及、電動車の利用拡大、資源循環の取り組みなど、脱炭素化投資の拡大が見込まれます。
ライフスタイルの変化
政府が2021年10月に閣議決定した地球温暖化対策計画によると、2030年度の温室効果ガスについて2013年度比46%削減を目指すとしており、家庭部門では約66%削減する必要があります。そのためには国民1人1人が脱炭素型ライフスタイルに転換する必要があります。
脱炭素型ライフスタイルを促進するため、環境省では「ゼロカーボンアクション30」を提言しています。そのなかのいくつかを見てみましょう。
再エネ電気への切り替え
CO₂を排出しない再生エネルギーによって発電した電気への切り替え
クールビズ・ウォームビズ
適度な暖冷房で快適に過ごせるクールビズ・ウォームビズにする
省エネ家電の導入
最新の省エネ家電・LED照明を導入して、ご家庭からのCO₂ 排出量の約半分を占める電気による排出量を減らす
スマートムーブ
ご家庭からのCO₂排出量の約4分の1を占めている自動車から、徒歩、自転車、公共交通機関などの自動車以外の移動手段の選択(スマートムーブ)に切り替える
ゼロカーボン・ドライブ
再エネ電力、電気自動車、プラグインハイブリッド車、燃料電池車を活用し、走行時CO2排出ゼロを実現する
太陽光パネルの設置
太陽光発電を利用してCO₂排出と電気料金を大幅に抑える
ZEH(ゼッチ)
住宅の高断熱化、高効率設備による省エネと再エネ導入で年間の住宅エネルギー消費量がゼロとなるZEHに切り替える
脱炭素が他製品・サービスの選択
商品を選択するとき、環境配慮マークの付いた商品やCO₂排出量を見える化している商品を選ぶ
脱炭素の電気を選択しよう
温対法改正でカーボンニュートラルが明文化されたことから、今後ご家庭におけるカーボンニュートラルの取り組みが重要になります。なかでもご家庭でのCO₂排出量のうち、大きな割合を占めているのが「電力由来」です。
電力由来とは、電力会社から購入する電気に由来するCO₂排出を指します。環境省によると、2019年度における日本全体のCO₂排出量は合計11億800万トン、そのうち家庭に由来するのは14.4%です。そのなかで電力由来の排出は9.6%。9.6÷14.4と計算すると、およそ2/3が電力由来ということになります。そう考えた場合、電気の購入を「脱炭素化に取り組んでいる電力会社の電気」に切り替えることによって、ご家庭からのCO₂排出量を削減することができます。
Looopでんきは温室効果ガス削減に向け再生可能エネルギー導入に力を入れ、環境価値サービス「eneco」を通じて、実質再生可能エネルギー100%、CO₂排出量実質ゼロの電気(eneco RE100%)をお届けしています。eneco RE100%は国際イニシアチブであるRE100などへの適用(要トラッキング)や温対法における排出係数有の報告で利用できます。
enecoには3つの特徴があります。1つ目はenecoの費用には上乗せがなく、非化石証書の取得費用(実費)だけという点です。2つ目はマイページで調達状況が分かり、再生可能エネルギー使用量やCO₂排出量を記録した書面のダウンロードが可能です(2022年初春公開予定)。3つ目は電気供給契約のオプションとして簡単に申し込み・解約ができることです。
eneco RE100%は「CO₂排出を削減したい」「温対法、省エネ法に対応したい」「RE100のような国際イニシアチブを獲得したい」「エコ活動に貢献したい」「再エネに切り替えたい」などのお客様にご利用いただいています。興味のある方はぜひチェックしてみてください。
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