原子力発電所は、日本でも長らく主要な電力源の1つに数えられてきました。
2011年に起きた東京電力福島第一原子力発電所の事故以降、原子力発電が占める割合は大幅に下がっているものの、さまざまな理由から今も稼働は続いています。
原子力発電所が抱える問題の1つが、放射性廃棄物(核廃棄物)の危険性です。国内外では、どのような放射性廃棄物の処分方法が検討されているのでしょうか。
今回は、放射性廃棄物が環境に与える影響と実態、最終処分方法である「地層処分」について詳しく解説します。
原子力発電と放射性廃棄物
原子力発電を行う際、必然的に生まれてしまうのが放射性廃棄物です。まずは、原子力発電の仕組みをふまえつつ、この放射性廃棄物が生まれる過程を解説します。
原子力発電の仕組み
原子力発電は、原子核を核分裂させて熱エネルギーを取り出し、それを利用して発電します。
物質を構成する原子は原子核と電子でできており、原子核はさらに陽子と中性子から成ります。この原子核がほかの物質に反応して分裂することを「核分裂」、原子核同士が融合することを「核融合」と呼び、どちらも大きなエネルギーを生みます。
原子力発電に使われているのは、核分裂を起こしやすいウラン235が含まれたウラン鉱石です。ウラン235は中性子を吸収すると核分裂を起こします。この際、発生する熱を利用して発電タービンを回すのが原子力発電の仕組みです。ウラン鉱石は発電に適するよう調整・加工して利用されています。
ウラン235が核分裂を起こすときに発される熱エネルギーは石油・石炭の燃焼で得られるものよりもはるかに膨大です。このことから、原子力発電は効率の良い発電方法として世界各国で用いられてきました。
核燃料サイクル
原子力発電の使用済み核燃料は再利用されています。
先ほども触れたように、原子力発電の燃料であるウランの成分すべてが核分裂を起こすわけではありません。核分裂しやすいウラン235の濃度が100%になってしまうと、原子爆弾のような爆発的な反応が起きてしまうためです。
反対に核分裂が起きにくいのがウラン238。実は、これが核燃料の大半を占めています。発電の際、中性子を吸収したウラン238は核分裂が起きやすいプルトニウム239に変化します。
使用後の核燃料はプルトニウム239や核分裂やほかの物質に変化せず残ったウラン235、ウラン238などが9割以上を占めます。これらは再処理によって混合酸化物燃料(MOX燃料)にすることで、再び原子力発電所で利用できます(※)。
このような再利用は「プルサーマル」と呼ばれ、限りある資源を有効に使う方法として世界で広く行われています。
そして、この処理をしてもなお再利用できない核燃料がいわゆる放射性廃棄物です。次項から詳しく説明します。
放射性廃棄物とは
原子力発電で生まれる放射性廃棄物は、液体・固体・気体などさまざま。これらに対する処分は、それぞれ適切な処理をおこない、残存する放射能レベルに応じて対応方法を変えて処分されます。
ここからは「高レベル放射性廃棄物」と「低レベル放射性廃棄物」に大別し、それぞれの処理・処分方法について見ていきましょう。
高レベル放射性廃棄物
先ほども触れたように、使用済み核燃料の9割以上が再処理によってふたたび原子力発電に利用されますが、残りは廃液となります。この廃液は溶かしたガラスとあわせて共に固められます。これが、高レベル放射性廃棄物であるガラス固化体です。
このガラス固化体は爆発などの恐れはないものの、放射能レベルが高く人体に有害です。そのため、長い時間を経て放射能レベルが下がるまで放射能を通さない安全な場所に保管しなければなりません。
日本では、日本原燃株式会社が運営する青森県六ケ所村の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センターが保管を担っています。現在はここでは厳重に管理されていますが、より確実な地層処分を行う計画が検討されています。
また、同所では核燃料再処理工場も着工。しかし、2021年時点で完成が25回延期されており、運用開始の見通しが立っていないのが現状です。
低レベル放射性廃棄物
原子力発電で発生する廃棄物のなかで比較的放射能レベルが低いものが低レベル放射性廃棄物です。低レベル放射性廃棄物は放射能レベルの高い順にL1、L2、L3と区別されています。
L1…放射能レベルの比較的高い廃棄物:制御棒、炉内構造物など
L2…放射能レベルの比較的低い廃棄物:濃縮廃液、紙、布、イオン交換樹脂など
L3…放射能レベルの極めて低い廃棄物:コンクリートや金属
廃液などの液体は濾過や蒸発濃縮を経て放射性物質を取り除きます。紙や布などは焼却後に圧縮され、フィルターやイオン交換樹脂は貯蔵タンクに保管されて放射能レベルを下げたあと、ドラム缶に入れられます。
これらの処理を経た廃棄物は基本的に地中に埋められますが、深さや地質によって4つに分類されます。
なお、放射性物質を含む排気はバグフィルターを通して大気中に放出されます。放射性物質はバグフィルターでばいじんと一緒に捕捉されます。
低レベル放射性廃棄物の処分方法 | |
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トレンチ処分 | 人工構築物を設けない浅い地中に埋設する処分方法 |
ピット処分 | コンクリートピットを設けた浅い地中に埋設する処分方法 |
中深度処分 | 一般的な地下利用に対して十分余裕を持った深度(地下70m以深)に埋設する処分方法 |
地層処分 | 地下300mより深い地下に埋設する処分方法 |
地層処分について
放射性廃棄物の処分方法については、これまで各国間でたびたび議論されています。
そのなかで現状、最も妥当性が高いとされているのが地層処分です。ここからは、日本でも有力視されている地層処分について詳しく解説します。
現在、もっとも現実的な選択
放射性廃棄物の処分場所として地下が選ばれた理由は、現時点でもっとも現実的な選択であるからです。
放射性廃棄物のなかでもっとも強い放射能を発するのが、先述した使用済み核燃料。発生直後は数十秒そばにいるだけで人の生命に危険が及びます。時間が経つにつれて放射能レベルは下がるものの、危険がなくなるまでには1,000年から数万年という大変長い時間が想定されています。
そのような物質を人の活動や自然災害などの影響を受けやすい地上に置いておくことは危険視され、地下深部への埋設が考えられるようになりました。これが地下300m以上に放射性廃棄物を埋める地層処分です。
地下深部は酸素が少ないため物質が変化しにくく、埋めたものの移動速度も非常に遅いのが特徴です。また、深さや地質を選べば放射能が漏れ出るリスクも最小で済みます。
さらに、放射性廃棄物を後の世代に残してしまうことを考慮し、一定の期間は回収可能にしておく「回収可能性の確保」もなされています。将来世代の選択の余地をできるだけ残そうという考えです。
地層処分以上に現状に即した処理方法は、今のところどの国も持ち合わせていません。
最適地の選定
地層処分において重要な要素の1つが最適地の選定です。
地下がより安全性の高い処分場所であるとはいえ、地層処分はどこでも行えるというわけではありません。火山活動や断層の動きによって埋設場所が破壊されるリスクはできるだけ避ける必要があります。
そのためには、過去の文献やデータの洗い直しから実際に掘削して地質の分析を行うところまで、綿密な地質調査が求められます。
処分地の選定手順は以下のとおりです。
- 【1】文献調査…広域にわたる過去の火山活動などを文献から調査
- 【2】概要調査…地下の状況を実際に調べる地盤調査(ボーリング調査)
- 【3】精密調査…地下施設を建設し、より細密に行う地下環境の調査
また、地層処分の実施は、原子力発電を行う各電力会社が協力して立ち上げた原子力発電環境整備機構(NUMO)が主体的に行っています。
2021年時点で各自治体への呼びかけに応えているのは、北海道寿都町・神恵内村です。
政府からの交付金や、施設の建設・運用で生まれる雇用の拡大など、処分地であることのメリットと放射性廃棄物の危険性などのデメリットが、自治体や地域住民にどのように受け取られるかが今後の焦点となります。
現在の貯蔵方法
ここまで放射性廃棄物の将来的な処分方法について説明しましたが、現時点では使用済み燃料はどのように保管されているのでしょうか。
現在採用されている貯蔵方法は主に2つあります。
まず1つは湿式貯蔵です。廃棄直後の燃料は高い熱と放射線量を持つため、まず水が循環する燃料プールで冷却されます。その後、水やコンクリートといった放射線を遮断する物質で囲み、貯蔵します。
水を使う湿式貯蔵に対し、風を使う貯蔵方法が乾式貯蔵です。乾式貯蔵では、燃料プールで冷却された廃棄物を空気の自然対流が起きる「キャスク」という金属容器で貯蔵します。
これまで検討されてきた高レベル放射性廃棄物の処分方法
使用済み核燃料の放射能レベルが天然のウラン鉱物ほどに下がるまでには約10万年、再処理をほどこしても約8,000年はかかるとされています。何世代にもわたって安全に管理できるのはもちろんのこと、管理を維持するためのリソースも考慮に入れなければなりません。
地層処分のほかには、これまでにどんな高レベル放射性廃棄物の処分方法が検討されてきたのでしょうか。
海洋底処分
まずは海洋底処分。放射性廃棄物を深海底の泥に埋めることで地上や海中の生物・環境から隔離するという方法です。深海底の堆積物による放射線の吸着や、海水による放射性物質の希釈が期待されていました。
しかし、深海の環境についてはまだ解明されていない部分が大きく、環境汚染や生物への影響などリスクが大きいこともあり、ロンドン条約で禁止されています。
氷床処分
南極の氷に廃棄する方法も検討されていました。
氷上に置かれた高レベル放射性廃棄物は、自らの熱で氷を溶かします。氷が溶けるにつれ南極の厚い氷の中に沈み、周辺環境からの隔離がかなうと推測されていました。
しかし、南極の氷についてもすべて解明されているわけではなく、不確定要素やリスクは無視できません。また、南極までの輸送費を考えると現実的な案とは言い難いのが現状です。さらに、地球温暖化が進み南極の氷が溶けてしまえば、放射性廃棄物が再び露出することになります。
これらの理由から氷床処分もまた、南極条約の禁止事項に含まれています。
宇宙処分
放射性廃棄物を宇宙に打ち上げて廃棄してしまおうという案もあります。広大な宇宙空間ならば廃棄場所が不足することもなく、地上の環境にも影響を与えません。
しかし、廃棄物が溜まるたびにロケットを打ち上げると莫大な費用がかかります。その上、現時点での技術では100%ロケットの打ち上げが成功するとはいえず、もしも墜落や発射事故が起きた際に地上や海洋に甚大な被害が発生する恐れもあります。
費用面やリスクの大きさから、宇宙処分が実現する見込みはいまだ立っていないのが現状です。
海外の事例
日本では地層処分や再処理施設の新設が遅々として進まない状況にありますが、海外諸国でも同様です。
2021年時点で処分場の操業目処が立っているのはフィンランドとスウェーデンの2カ国のみ。最後に、2つの国の具体的な進捗を見ていきましょう。
フィンランド
フィンランドでは、南西部に位置するオルキルオト島にて2016年12月から地層処分場の建設がはじまっています。施設の名前は「オンカロ」。日本語で「洞窟」を意味します。
オルキルオト島には、フィンランドの発電量を大きく占める原子力発電所が2基あり、さらにもう1基が建設されています。2020年代には操業を開始し、2120年頃には処分完了および閉鎖が行われる予定です。
事業者であるポシヴァ社による自治体や地域住民とのきめ細かなコミュニケーションが実を結び、住民の賛成を勝ち取っています。
スウェーデン
スウェーデンでは原発事業者4社によって立ち上げられたSKB社が主導。地層処分の立地を調べる「総合立地調査」と公募に応じた自治体の処分場立地についての見通し、2つの調査を同時に行う「フィージビリティ調査」が行われました。
2009年、最終処分地に選定されたのはフォルスマルク。ストックホルムから北に約120kmの場所にあります。2011年には処分地の立地・許可申請が実施され、2031年頃に操業を開始。2070年代後半に処分完了と閉鎖を予定しています。
SKB社では現場調査の実態や資料提供などを積極的に行い、地域住民の理解を勝ち得ました。また、処分地の自治体と協定を結び、教育やインフラ、地元企業への協力なども行っています。
エネルギーは選べる時代
稼働すれば核廃棄物が生まれることは避けられない原子力発電。しかし、発電時にCO₂を排出しないというメリットもあります。このようなメリットとデメリットを比較し、さらにこの記事でご紹介した核廃棄物処理についての取り組みをふまえながら、私たちの生活と未来にとって何が重要かを考えなくてはなりません。
とはいえ、原子力発電以外にも注目されているエネルギー源があります。その代表が再生可能エネルギーです。
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