都市部の気温が年々上昇している理由の1つとしてよく挙げられるのが、ヒートアイランド現象。ヒートアイランド現象とは何でしょうか。ここでは、その原因や環境への影響、対策としてどのようなことが行われているか、などについて解説するとともに、地球温暖化との違いなどについて説明します。
ヒートアイランド現象とは何か
ヒートアイランド現象とは、都市の中心部における気温が郊外に比べ高くなる現象のことです。気温を等温線で示すと、気温の高い地域が島状に見えることからそう名づけられました。
世界の気温は、地球温暖化によって過去100年で約0.7℃上昇していますが、東京や名古屋など日本の大都市の平均気温は、この100年で2.2~3.0℃上昇しています(※)。これは、日本の大都市では、地球温暖化による気温の上昇にヒートアイランド現象による気温上昇が加わり、都市部の温暖化が進んでいるためと見られています。
例えば、1927年から2018年の平均気温の変化で見ると、東京では年3.2℃、冬4.2℃、夏2.1℃上昇しているのに対して、都市部でない日本国内15地点では、年1.5℃、冬1.5℃、夏1.1℃上昇となっていて、東京の気温の上昇、特に冬の気温の上昇が顕著です。
気象庁の報告(※)を見ると、東京周辺で気温が30℃以上になる時間が1980年代前半には年間200時間程度だったのに対し、近年では約2倍の400時間に増えていて、都市部の気温が上昇傾向にあることがわかります。
ヒートアイランド現象の原因
では、都市部でヒートアイランド現象はなぜ起きるのでしょうか。ここではその原因について説明します。
自動車や建物などから出される排熱
ヒートアイランド現象の原因の1つに、自動車や建物などからの排熱が挙げられます。都市部では日中、交通量が多く、幹線道路沿いなどで自動車排熱が増加します。また、ビルには多くの事務所があり、空調設備やOA機器、給湯器などの使用で発生した熱が放出されます。
工場や火力発電所、ごみ焼却場などからは、燃料の使用や電力の消費に伴い発生する熱が放出されます。
緑地や水面の減少
ヒートアイランド現象の原因の2つ目は、都心部では畑や田んぼなどの緑地が減少し、河川も埋め立てられたり、覆いがかぶせられたりした結果、周囲の空気を冷やす効果が失われていることです。
植物は、地中から水を吸収し、気温が高くなると、葉の表面から水分が蒸発します(蒸散)。この際に空気の熱を奪います。河川の水も同様です。 このように、緑地や河川には周辺を冷やす冷熱源としての効果がありますが、緑地や水面が減少すると、気温が下がりにくくなり、熱がこもった状態になります。
アスファルト・コンクリートに覆われた地面の増加
ヒートアイランド現象の原因の3つ目は、都心部ではアスファルトの道路やコンクリートでできた建物に覆われた地面が増加していることです。アスファルトやコンクリートの場合、日射を受けると熱をため込み、なかなか冷めません。夏の日中には表面温度が50~60℃程度まで上昇して大気を加熱するうえ、蓄えた熱により夜間の気温の低下も妨げます。
先述した気象庁の「都市の気温はどのくらい上昇しているのですか?」をもう一度見てみましょう。人工的な地表面被覆の割合を示す「人工被覆率」に着目すると、東京は92.9%、大阪92.1%、名古屋89.3%札幌75.1%などと高くなっていることがわかります(※)。一方、都市部でない観測地点15箇所の人工被覆率の平均は16.2%となっています。
ビルの密集による風通しの悪化
ヒートアイランド現象の原因の4つ目は、ビルの密集による風通しの悪化です。ビルが密集すると、風の通りが悪くなります。風通しが悪くなれば、ビルや自動車などからの排熱やコンクリートやアスファルトに溜まった熱の移動が抑えられて、熱がこもりやすくなります。
東京では、東京湾からの風が熱の移動に重要な役割を果たしていますが、ビルが密集した場所では東京湾からの風が通りにくいので、ヒートアイランド現象が起きやすくなっています。
天空率の低下
ヒートアイランド現象の原因の5つ目は、高層ビルの密集による天空率の低下です。天空率とは、地表面から上を見上げた時にビルの谷間から空の見える割合のことです。
高層ビルが密集した都市部では、地表から上を見上げても空はあまり見えません。地表面から熱が放出されて冷えることを放射冷却と言いますが、天空率の低い地域では夜間の放射冷却が阻害されるので、熱が溜まりやすくなってしまうのです。
ヒートアイランド現象と地球温暖化の違い
ヒートアイランド現象に近いものに地球温暖化があります。人の活動が原因で気温の上昇をもたらす点では同じですが、仕組みなどは異なっています。その違いについて、以下で説明します。
仕組みの違い
ヒートアイランド現象はこれまで見てきたように、人工的な構造物や排熱の増加、自然な地面の減少によって気温が上昇する現象で、都市部に限定された現象です。
一方、地球温暖化は、二酸化炭素を中心とする温室効果ガスによって気温が上昇する現象で、地球全体規模で起きています。暖かくなるという意味では同じ現象ですが、仕組みや現象の規模は全く異なっています。
二酸化炭素などによる温室効果ガスがない場合、地球の表面の温度は氷点下19℃と見積もられていますが、温室効果により現在の世界の平均気温は約14℃となっています。この温室効果ガスが増えると温室効果が強まり、地球の表面の気温が高くなります。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第6次評価報告書では「世界平均気温(2011~2020年)は工業化前と比べて約1.09℃上昇」と結論づけています(※)。
こうした日本各地での気温上昇や世界各地での長期的な気温の上昇には、地球温暖化が影響していると考えられています。
都市部は両方の影響を受ける
はじめに見たように東京など都市部の気温上昇は顕著です。
前述のIPCC第6次評価報告書では、工業化以前から約1.09℃上昇と報告されていますが、
東京や名古屋など、日本の大都市の平均気温はこの100年間で2.2~3.0℃上昇しています。地球温暖化による気温上昇にヒートアイランド現象がもたらす気温上昇が加わり、都市の温暖化が急速に進んでいると見られているのです(※)。
ヒートアイランド現象が環境に与える影響
ヒートアイランド現象は私たちの健康や社会生活、動植物などの自然界にさまざまな影響を与えています。ここではその影響について見てみましょう。
人の健康に与える影響
熱中症
熱中症は、気温が上昇して高温になると、体温の調整機能が失われて体内の水分や塩分のバランスが崩れて起きる障害の総称です。筋肉のひきつけ、失神などを起こし、死に至る場合もあります。
環境省によると、日最高気温が30℃を超えると熱中症による死亡が増え始め、さらに気温が高くなるにつれて死亡率が急激に上昇する傾向があります。
特に日最高WBGT(湿球黒球温度:気温に加え、輻射熱や湿度を取り入れた指標)と熱中症死亡率との関係は日最高気温以上にはっきりしていて、日最高WBGTが28℃を超えるあたりから熱中症による死亡率が増え始め、その後日最高WBGTが高くなるほど急激に死亡率が上昇します。
熱中症は、梅雨明け直後など急に熱くなった時に高まる傾向があり、高齢者の場合、半分以上が自宅で発症しているので注意が必要です(※)。
熱帯夜による睡眠障害
東京の熱帯夜の年間平均日数の推移を見ると、1931~1940年は7日ですが、1971~1980年には16日まで増加、2001~2010年には29.9日とほぼ1カ月近くが熱帯夜となっています(※1)。この熱帯夜の増加は、多くの人に睡眠障害をもたらしています。
環境省の調査によると、日最低気温が26℃以上になると、目が覚めてしまう人が30%以上になることがわかっています。また、日最低気温が1℃上昇すると睡眠者の覚醒割合が5%増加し、就寝時の気温が1℃上昇するごとに睡眠障害者の割合が3%増加するようです(※2)。
光化学スモッグの発生
光化学スモッグは、工場の煙や自動車の排気ガスなどに含まれている窒素酸化物や炭化水素が、太陽からの紫外線を受けて光化学反応を起こし、二次的汚染物質を生成することによって発生します。二次的汚染物資とはオゾン、パーオキシアセチルナイトレート等の酸化性物質などで、これらを総称して光化学オキシダントと呼んでいます。
この光化学オキシダントが溜まると、気象条件によっては白くもやがかかったような状態になることがあり、この状態を光化学スモッグと呼んでいます。光化学スモッグは、日差しが強く気温が高い、風の弱い日に発生しやすくなります。健康への影響としては、目がちかちかする、涙が出る、喉が痛いなどの症状が出ることがあります。
ヒートアイランド現象によって都市部で空気が暖められると上昇気流が生じ、上空にいくほど高温となる「逆転層」が生じます。この逆転層が都市部上空を覆うことで、都市内部で生じた大気汚染物質の拡散を妨いでしまいます。これをダストドームと言いますが、この現象によって光化学スモッグが発生しやすくなります。
植物への影響
ヒートアイランド現象は都市の植物にも影響を与え、植物の開花や紅葉・落葉の時期が、温度の上昇の影響で変化しています。
例えば、3月の平均気温が近年上昇していることから、東京管区気象台が発表しているソメイヨシノの開花日が早まってきています。
東京の開花は千代田区の靖国神社にある標本木で判定されていますが、2020年は3月14日で観測史上最も早い開花となりました。
気象庁の開花記録を見ると、1960年代の10年平均では3月30日の開花だったのに対して、2000年代に入ってからは3月22日が平均となっています(※1)。
また、1月の平均気温が1℃上昇すると、ツバキが7.51日、ウメが6.07日早まり、秋のイロハカエデの紅葉は9~10月の平均気温が1℃上昇すると全国平均で4日前後遅くなることが指摘されています(※2)。
一方、都市の生物相への影響も顕著です。東京都目黒区にある国立科学博物館附属自然教育園では、園内の主要樹種が1950~2002年に大きく変化しています。熱帯性のシュロが3本から1,082本に増加する一方、スギが121本から10本に減少しました(※3)。
エネルギー消費量の増加
都市部の場合、オフィスなどの業務部門が占めるエネルギー消費の割合が高くなっている傾向があります。例えば、東京都千代田区ではエネルギーの約8割を業務部門が消費しています(※)。
人やパソコンなどの機器が多いオフィスでは、夏季の冷房使用によるエネルギー消費量が多くなっていますが、ヒートアイランド現象による気温上昇がさらに冷房使用を増加させています。
気温上昇で夏の冷房使用が増え、エネルギー消費量が増加すると、CO₂排出量が上昇し、地球温暖化に結びつくので、地球温暖化対策の面からも課題となっています。ちなみに、日本のCO₂排出量のうち2割を占める業務部門のCO₂排出量は、1990年から2006年まで4割も増加していて、部門別の増加率では最も高くなっています(※)。
ヒートアイランドへの対策
ヒートアイランド現象は人の健康や環境にも影響を及ぼしていますが、この現象を解消するにはどのような方法があるでしょうか。ここでは、その対策について見てみます。
現象の緩和と影響の抑制
ヒートアイランドへの対策としては、「現象の緩和」と「影響の抑制」の2つの側面から対策を講じることが重要です。
現象の緩和とは、ヒートアイランド現象をもたらす人口排熱やアスファルト舗装などの削減を進めることです。具体的には、海風の利用、公園・緑地などの活用、街路樹の活用、屋上緑化、噴水・水景施設の利用、舗装の保水化と散水、建物排熱や自動車排熱の削減などが行われています。
一方、影響の抑制では、例えば、日中の暑熱ストレス緩和対策があります。体感温度を上昇させる日射を遮蔽する木陰の創出や、輻射熱を低減する地表面の保水化などが有効です。また、夜間の寝苦しさの緩和対策として、住宅地での緑化や保水化などが推進されています。こうした対策で日最低気温を1℃低下できれば、推定覚醒人口を5%程度削減できるとされています(※)。
屋上・壁面緑化
屋上緑化や壁面緑化はヒートアイランド現象の緩和などの観点から、全国的に取り組みが推進されています。
国土交通省の調査によると、2020年中に施工された屋上緑化は約19.9ha(新国立競技場の約3つ分に相当)、壁面緑化は約5.8haになり、施工面積における事務所用途の占める割合は、屋上・壁面緑化とも、過去10年間で最も高くなりました。調査開始の2000年からの21年間の合計では、屋上緑化は約557ha、壁面緑化は約109haとなっています(※)。
また、同省では都市緑化推進の一環として緑のカーテンの普及啓発も行っています。緑のカーテンとは、アサガオやゴーヤなどつる性植物を建築物の壁面を覆うように育てて緑化をすることを指します。条件によっては、日射を遮ることで室内温度を2℃程度低減できるとされ、ヒートアイランド現象の緩和による省電力効果も期待されています(※)。
建物からの排熱削減
国土交通省と環境省の調査によると、東京23区の人口排熱のうち建物からの排熱が半分を占めています。建物の省エネ化にはさまざまな技術があり、東京都では「省エネリフォームガイドブック」を作成しています。
例えば、戸建て住宅の場合、高反射率塗料の塗布による屋根の日射遮蔽、オーニング等による日射遮蔽、日射遮蔽性能の高い窓ガラスへの取り替え、天井・屋根への断熱材の施工、壁の断熱、床の断熱施工、断熱性能の高いドアへの取り替えなど、さまざまな対策があります。
また、温水や冷水を1箇所のプラントでまとめて製造し、導管を通じて街に供給するシステムである地域冷暖房(地域熱供給)の導入によって、熱源を一元化することで排熱を大幅に削減できます。
経済産業省の調査によると、地域冷暖房の導入による省エネ効果は、個別熱源による建物に比べ9.9%、未利用エネルギーを活用した地域冷暖房システムの導入で20.6%となります(※)。現在、地域冷暖房において利用されている主な未利用エネルギーは、海水、下水、ごみ焼却施設などの熱などがあります。
遮熱性舗装の道路
遮熱性舗装は、日中に日射を受けて高温になる歩道や車道に、太陽光のうち近赤外線領域を効率的に反射する特殊な顔料や材料を塗布あるいは充填して表面温度の上昇と周辺気温の上昇を抑制するものです。
埼玉県庁舎敷地での検証では、日中の最高気温時に6~12℃程度の表面温度低下効果が認められ、大気を暖める顕熱量での効果測定では日中(12~15時)、夜間(21~24時)とも25~40%の低下が認められるなど、ヒートアイランド抑制効果が確認されています(※1)。
国土交通省によると、遮熱性舗装の施工実績は、2002~2020年度の累計で1,906件、面積にすると2,943,892平方メートルです。そのうち70%は東京都が占めています。東京オリンピックではマラソンコースに導入され、現地試走会に参加した委員からは、「遮熱性舗装は明らかに涼しい」(瀬古利彦委員)などの感想が聞かれました(※2)。
環境に貢献する電気を選ぼう
都市部で生活する人は、ヒートアイランド現象と地球温暖化の両方の影響を受けています。ヒートアイランド現象によって暑くなった夏を乗り切るために、冷房の使用頻度が多くなると、電気の使用量が増え結果的にCO2の排出量が増えることになります。そうすると、地球温暖化がますます進行するという悪循環になってしまいます。
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