SDGs策定により環境問題への取り組みが加速する今、温室効果ガス排出削減に注目が集まっています。しかし、いざ個人で行動に移してみようとした場合、何から始めてよいのかわからない、という方も多いのではないでしょうか。
この記事では、温室効果ガスの影響と問題点を中心に、ご家庭でできるCO₂削減方法をご紹介します。
温室効果とは
まずは、温室効果について改めて確認していきましょう。
地球を覆っている大気の主な成分は窒素や酸素ですが、その中に含まれる二酸化炭素やメタン、フロンガスなどは温室効果ガスと呼ばれており、赤外線を吸収し、再び放出する性質をもっています。
放出された赤外線の大部分は熱として大気に蓄積され、再度、地表に戻ってきます。この熱により地表の温度が上がることを温室効果といいます。
ちなみに、「温室効果ガス=環境に悪いもの」と思われがちですが、温室効果ガスは、地球には必要不可欠なものです。
現在、地球の平均気温は14℃前後ですが、もし大気中に温室効果ガスがなければ-18℃になるといわれています。地球が-18℃になってしまったら、異常気象が起き生態系が崩れ、今と同じような生活は送れません。
温室効果ガスの種類
近年、温室効果ガスが問題視されている理由は、温室効果ガスの濃度が高まり、熱の吸収量が増えたことで地球温暖化が進んでいるためです。
温室効果ガスには、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素やフロン類など、複数の種類が存在します。総排出量に対するそれぞれの割合は、二酸化炭素が76%と最も多く、メタン15.2%、一酸化二窒素6.2%、フロン類2%となっています。それぞれの特徴を確認してみましょう。
二酸化炭素
二酸化炭素はCO₂の化学式で表される、無色無臭の気体です。炭素と酸素から成り、炭酸ガスと呼ばれることもあります。石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料が燃焼することで発生します。
現在日常生活で使っているエネルギーの大部分は、化石燃料の燃焼によって生み出されています。ガソリンを使う際や、火力発電を行う際にも二酸化炭素は発生します。
つまり、私たちは日々の生活の中で多くの二酸化炭素を発生させているのです。その結果、温室効果ガスの排出割合は、二酸化炭素が最も多い状況になっています。
一方で、植物には二酸化炭素を吸収する力があります。近年では、窒素酸化物や硫黄酸化物など、大気汚染を促す物質も吸収してくれることが判明しています。
メタン
メタンはCH₄の化学式で表される無色無臭の気体です。炭素と水素から成り、廃棄物の埋め立てや家畜の腸内発酵、水田などから発生する天然ガスです。また、一酸化炭素と水素を反応させることで、人工的にも作れます。
主に、化学品の原料や都市ガスとして利用されていて、温室効果ガスの排出割合は全体の15.8%と、二酸化炭素に次いで2番目。温室効果は二酸化炭素の約25倍です。
一酸化二窒素
一酸化二窒素はN₂Oで表される、わずかに甘い匂いのする無色の気体です。窒素と酸素から成り、亜酸化窒素とも呼ばれます。工業活動や燃料の燃焼から発生することが多く、自然環境では土壌や海洋から発生します。
笑気麻酔やロケットエンジンの燃料として使われ、温室効果は二酸化炭素の約298倍です。大気中の寿命が約121年と長く、一度放出されると長期間温暖効果をもたらすため、近年ではできるだけ排出しない動きが高まっています。
フロン類
フロンは「フルオロカーボン」の略語で、炭素とフッ素の化合物です。エアコンや冷蔵庫の冷媒、建物の断熱材やスプレーの噴射剤など、身の回りのさまざまなものに使われていましたが、フロンがオゾン層を破壊することが判明したため、現在は代替フロンと呼ばれるものが使われています。
代替フロンはオゾン層の破壊はしませんが、温室効果は二酸化炭素の数百倍から数万倍。かなりの数値ですが、温室効果ガス全体のわずか2%にとどまっています。
温室効果ガスによる環境への影響
温室効果ガスによる環境への影響には、どのようなものがあるのでしょうか?
温室効果ガスが増加すると、地表に熱がたまり気温が上昇します。これを地球温暖化といいます。地球温暖化が進むと、異常気象や海面の上昇、生態系の崩壊や食糧危機など、あらゆる方面で悪影響を及ぼすと予想されています。
実際に近年、日本でも異常気象を感じている方は多いでしょう。大型の台風やゲリラ豪雨も地球温暖化による影響の1つです。逆に、降水量が極端に減ったことにより、水資源が不足する地域もでています。
異常気象や水不足が起こると、農作物は順調に育ちません。今は問題なくても、今後、世界的な食糧危機に陥る可能性もあるのです。
食糧危機が栄養不足や免疫低下につながり、病気が広がる可能性もあります。洪水などが起こることにより、新たな感染症が発生する危険性もあるでしょう。
海面の上昇も重大な問題です。地球の平均気温が上がると南極や北極などの氷が溶け、海面の上昇につながります。その結果、海辺で生活している生物が絶滅する恐れもあるのです。
さらに、森林破壊により森に住む生物も減っています。また、二酸化炭素を吸収してくれる植物が減るため、地球温暖化がさらに進むという悪循環を起こしているのが現状なのです。私たちは地球温暖化を止めるために、温室効果ガスを減らす努力をしなければなりません。
温室効果ガスが増加している原因
温室効果ガスが増加している原因は主に2つ。化石燃料の大量燃焼と大規模森林の減少です。化石燃料の燃焼は温室効果ガス総排出量の76%を占めており、かつそれを吸収する大規模森林が減少したことで、大気中の温室効果ガスの増加が加速しています。
化石燃料とは石炭や石油、天然ガスのことです。化石燃料は日常生活のさまざまなシーンで使われており、私たちは自分で気づかないうちに二酸化炭素を発生させているのです。
例えば、火力発電には大量の化石燃料が必要です。また、車に乗ればガソリンを燃焼させるため、二酸化炭素が発生します。
大規模森林の減少については、農地に転換するなど土地利用のため森林を伐採してきたことも大きな要因になっています。
つまり、便利な生活ができるようになった結果、昔より二酸化炭素の排出量が増えてしまったのです。
温室効果ガス削減のための世界各国の目標と取り組み
では、温室効果ガス削減のために、世界各国ではどのような取り組みを行っているのでしょうか?
京都議定書とパリ協定
地球温暖化の対策が本格的に始まったのは1992年。地球サミットで気候変動枠組み条約がつくられたことから始まります。しかし、当時の気候変動枠組条約には、具体的な取り組みが決められていませんでした。
そこで具体的なルールを決めようとつくられたのが、京都議定書です。その後、京都議定書の内容を引き継ぐようなかたちで、2015年にパリ協定がつくられました。両者の違いは、「時期・目標達成義務の有無・対象国」の3点です。
京都議定書とパリ協定の違い | ||
---|---|---|
京都議定書 | パリ協定 | |
時期 | 2020年まで | 2020年以降 |
目標達成の義務 | 有 | 無 (目標の提出のみ義務) |
対象国 | 先進国のみ | 世界中の参加国 |
現在パリ協定では以下の目的と目標を掲げ、温室効果ガス排出ゼロの取り組みを行っています。
- 目的:世界共通の長期目標として、産業革命前からの平均気温の上昇を2℃より十分下方に保持。1.5℃に抑える努力を追求。
- 目標:今世紀後半に温室効果ガスの人為的な排出と吸収のバランスを達成できるよう、排出ピークをできるだけ早期に迎え、最新の科学に従って急激に削減。
※引用元:環境省「パリ協定の概要」
世界各国の目標と取り組み
では実際にどのような目標や取り組みが行われているのでしょう。パリ協定における主要国の目標と取り組み、進捗状況をご紹介します。
パリ協定における世界各国の目標・取り組み・進捗状況 | ||||
---|---|---|---|---|
目標 | 進捗状況 | 取り組み | 進捗状況 | |
イギリス | 2030年度に57%の温室効果ガス削減(1990年比) | 2016年時点で41%の削減実績 | 化学燃料を使わない発電の比率 | 2010年比で約2倍(47%)に増加 |
省エネルギーの状況 | 過去も現在も削減傾向 | |||
アメリカ | 2025年に26~28%の温室効果ガス削減(2005年比) | 2016年時点で12%の削減実績 | 化学燃料を使わない発電の比率 | 2005年の28%から2016年の34%まで増加 |
省エネルギーの状況 | 過去も現在も横ばい | |||
フランス | 2030年に40%の温室効果ガス削減(1990年比) | 2016年時点で18%の削減実績 | 化学燃料を使わない発電の比率 | 電力供給の約9割が化学燃料を使わない発電に |
省エネルギーの状況 | 現在は横ばい | |||
ドイツ | 2030年に55%の温室効果ガス削減(1990年比) | 2016年時点で27%の削減実績 | 化学燃料を使わない発電の比率 | 再生エネルギー比率が2010年比で約2倍の30%に増加しているものの、原子力発電比率が低下しているため、現在は約4割 |
省エネルギーの状況 | 現在は横ばい |
温室効果ガス削減のための日本の目標と取り組み
次に、温室効果ガス削減のための日本の目標と取り組みを確認してみましょう。
カーボンニュートラル宣言とは
2020年10月、日本政府は「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする」と宣言しました。これをカーボンニュートラル宣言といいます。
温室効果ガスの排出をゼロにすることは不可能なため、温室効果ガスの排出量から森林などによる吸収量を差し引き、実質ゼロにする対策を行うことを宣言しました。
具体的には以下の取り組みを推進しています。
- 再生可能エネルギーの有効利用を徹底する
- 電気自動車を主流にする
- 徒歩や自転車の活用の推進、公共交通の整備などを行う
日本の目標と進捗状況
日本はパリ協定において、2030年度に26%の温室効果ガスの削減(2013年度比)を中期目標に掲げています。対する進捗状況は、2016年度時点で7%の削減を実現。順調に目標ラインに近づいています。
また、長期目標では、2050年に80%の温室効果ガスの削減を目指しています。
温室効果ガス削減のために企業ができること
ここからは、温室効果ガス削減のために、企業ができることをご紹介します。
再生可能エネルギーやクリーンエネルギーの導入によるCO₂の排出削減
1つ目は、再生可能エネルギーやクリーンエネルギーの導入によるCO₂の排出削減です。
再生可能エネルギーは、以下のような温室効果ガスを排出せずに生産できる電力のことです。
- 太陽光発電
- 水力発電
- 風力発電
- バイオマス発電
- 地熱発電
再生可能エネルギーは継続的に再生可能なことが特徴ですが、これらのうち、自然環境から作られるものをクリーンエネルギーと呼ぶこともあります。
2019年度の日本の再生可能エネルギー比率は18%ですが、太陽光発電の発電設備容量は世界第3位です(※)。再生可能エネルギーが広く普及すれば、大幅な二酸化炭素排出の削減になるため、日本でも早いスピードで導入の取り組みが求められています。
また、企業や自治体で進んでいるのが緑化事業です。敷地内や屋上などに庭園を作り、二酸化炭素の削減に貢献する企業や自治体が増えています。
節電や省エネ対策
2つ目は、節電や省エネ対策を行うことです。具体的には「節電・節水・クールビズ・ウォームビズ」がすぐにできる対策です。
使用電力が削減できれば火力発電で使用される化石燃料が減るため、二酸化炭素の排出削減につながります。また、クールビスやウォームビズを行うことでエアコンの使用量が減り、二酸化炭素やフロン類の排出削減につながるでしょう。
電気自動車の導入によるCO₂の排出削減
3つ目は、電気自動車の導入によるCO₂の排出削減です。電気自動車とは電気の力のみで動く車のことで、ガソリンは一切使いません。そのため、ガソリンから排出される二酸化炭素を大幅に削減できる、環境に優しい車なのです。
ただし、製造や輸送の際には、温室効果ガスの排出量がガソリン車より増えるとの報告もあり、当面の間、企業の大きな課題になるかもしれません。
家庭でもできる温室効果ガス削減への取り組み
最後に、ご家庭でもできる温室効果ガス削減への取り組みをご紹介します。
節電や省エネを心がける
1つ目は、節電や省エネを心がけることです。すぐにできる対応策として、まずは以下のことを行ってみましょう。
- 使っていない電化製品の主電源を切り、待機電力を減らす
- エアコンの設定温度を見直す
- 部屋の電気の明るさを調整する
- 冷蔵庫の開閉時間は短くする
- お風呂の自動保温は利用しない
- シャワーを出しっぱなしにしない
- 温水洗浄便座の設定温度を調整する
- 車より電車やバスを利用する
2020年度に家庭から排出された二酸化炭素の発生源は「電気が47.6%・ガソリンが21.6%・ガスが14.9%」、これらを削減するためには、すぐにできることから始めるのが肝要です。
再生可能エネルギーで発電した電気を選ぶ
2つ目は、再生可能エネルギーで発電した電気を選ぶことです。再生可能エネルギーは、二酸化炭素を排出しない環境に優しい電力です。ご家庭での二酸化炭素排出量の割合が最も高い電気を再生可能エネルギーに変えることで、カーボンニュートラルに貢献できます。
電力会社を自由に選べるようになった現在、再生可能エネルギーを取り扱う会社が増えてきました。この機会に見直ししてみてはいかがでしょうか。
エコな電気を選ぶことが温室効果ガス削減につながる
温室効果ガス削減への取り組みは、日本だけでなく世界的な重要課題です。決して他人事ではない今、まずはできることから始めてみましょう。温室効果ガス削減への取り組みの一歩として、エコな電気を選ぶことがおすすめです。
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脱炭素社会実現のために必要なことについては、こちらの記事で詳しく紹介していますので合わせてご覧ください。
⇒いま注目のカーボンニュートラルとは?脱炭素社会実現のために必要なこと
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Q 温室効果とは?
地球を覆っている大気の主な成分は窒素や酸素ですが、その中に含まれる二酸化炭素やメタン、フロンガスなどは温室効果ガスと呼ばれており、赤外線を吸収し、再び放出する性質をもっています。放出された赤外線の大部分は熱として大気に蓄積され、再度、地表に戻ってきます。この熱により地表の温度が上がることを温室効果といいます。
-
Q 温室効果ガスの種類は?
温室効果ガスには、二酸化炭素やメタン、一酸化二窒素やフロン類など、複数の種類が存在します。総排出量に対するそれぞれの割合は、二酸化炭素が76%と最も多く、メタン15.2%、一酸化二窒素6.2%、フロン類2%となっています。