森林破壊や海洋汚染、気候変動など、さまざまな形で私たちの未来に影を落としている環境問題。近年では若い世代の関心も高く、世界的な問題に当事者意識を持って対処しようという動きが活発になりつつあります。
ただ、ひとくちに環境問題といっても話が大きく、雲をつかむような話になってしまいます。ここでは、国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)を切り口にして環境問題を考察していきます。
環境問題を地球温暖化、海洋汚染、生物多様性の3点から現在の状況や原因を解説。SDGsの解説も交えつつ、解決方法を探ります。
SDGs(持続可能な開発目標)とは
「環境問題」と聞いても詳細がつかみにくく、どんなことから取り組めばよいのか分からないという方もいるでしょう。環境問題を考える1つのきっかけとして、国連が定めるSDGsから考えてみましょう。
SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2015年9月の国連サミットにて加盟国の全会一致で採択され、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に国際目標として記載されました。
SDGsではPeople(人間)・Prosperity(繁栄)・Planet(地球)・Peace(平和)・Partnership(協働)の「5つのP」をもとに、17の目標とそれらを達成するための169の具体的なターゲットを設定しています。2030年までにこれらの目標を達成し、環境問題、貧困・飢餓の撲滅、ジェンダーの不平等をはじめとした世界全体が抱えるさまざまな問題を改善することで、より良い世界を築くことを目指すものです。
先進国・発展途上国を問わず各国が取り組む普遍的(ユニバーサル)な目標として、世界の新たな基準となりつつあるSDGsには日本も積極的な姿勢を見せ、さまざまな取り組みを行っています。
1.地球温暖化
SDGsのうち、13番目に掲げられているのが「気候変動に具体的な対策を」という目標です。
ここからは今人類が直面する最も大きな環境問題の1つである地球温暖化について解説します。
温暖化のメカニズム
地球の大気中に存在する二酸化炭素、メタン、フロンなどを「温室効果ガス」と呼びます。
現在、地球の平均気温は14℃前後ですが、もし大気中に温室効果ガスがなければ‐18℃ほどに下がるとされています。太陽の熱は地表を温めますが、地表の熱は放射されて地球の外に逃げていきます。それを妨げるのが温室効果ガスです。
つまり、温暖化の原因である温室効果ガスは、その反面で地球の気温を生命が生存できるレベルに保つために不可欠な存在なのです。
温室効果ガスが近年話題になっているのは、大気中における温室効果ガスの濃度が高まっていることで、熱の吸収が増えていることにあります。それがいわゆる「地球温暖化」問題です。
温室効果ガスのなかでも特に増えているのは二酸化炭素です。温室効果ガスの総排出量の実に76%を占めています。
二酸化炭素濃度が上昇した最大の原因は、19世紀後半産業革命以降の経済活動の活発化に伴う石油や石炭などの化石燃料の増加です。
排出量が増え続けている二酸化炭素の濃度は、1750年の時点では280ppm、2013年には400ppm以上に増加しています。二酸化炭素は40%以上上昇している計算になります。さらに、温室効果ガスである二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素は、過去80万年間で前例のない水準に達していると報告されました。
これらのことから、温暖化対策には二酸化炭素に代表される温室効果ガスを減らす「低炭素化」が急務とされています。
どれくらい気温が上がるのか
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第5次評価報告書(2013~2014年)によると、世界平均地上気温は1880年から2012年の期間に0.85℃上昇。また10年間ごとの推移を分析したところ、ここ30年間は1850年以降のどの10年間よりも高温を記録しています。
温室効果ガスがさらに増え続けると、今後気温はさらに上昇すると予測されています。
2014年に作成されたIPCC第5次評価報告書によると、温室効果ガスの排出量が最も少なく抑えられた場合でも2100年末に0.3~1.7℃の上昇、温室効果ガスの排出量が最も多い場合には最大4.8℃の上昇(※)が見込まれ、看過できない数字とともに、「気候システムの温暖化には疑う余地はなく、人間の影響によるものだという可能性は極めて高い」とした見解が発表されています。
温暖化による影響
地球温暖化が与える影響は大変深刻です。
よく知られる影響の1つは、気温の上昇に伴って南極の氷が溶け出し、生態系の混乱や海水面の上昇を引き起こすというものです。2021年5月に学術誌「ネイチャー」で発表された論文では、各国が低炭素化により積極的に取り組まなければ、今世紀半ばから南極の氷が融解するスピードは劇的に上がる可能性が示されています。
また平均気温の上昇は人類の死亡率にも影響を及ぼします。極度に気温が上がる異常高温の発生頻度を高め、熱波による死亡や疾病をもたらすためです。
国連国際防災戦略事務局(UNISDR)の報告によると、2005年から2014年に年間平均25個発生した大規模な熱波は、年間7,232人の死亡者を出しました。
近年世界で報告されている異常高温は、高齢者など体が弱い方にとっては特に深刻です。WHOによると、2030年には高温関連で死亡する65歳以上の高齢者数は37,588人にのぼると見積もられています。
2.海洋汚染
地球温暖化と同様に、海洋汚染も深刻な課題になっています。SDGsでは14番目の「海の豊かさを守ろう」という目標が該当しますが、具体的にはどのような問題が起きているのでしょうか。
海洋汚染の原因
「国連海洋法条約」では、海洋汚染の種類および原因を次のように分類しています(※1)。
●工場や家庭からの出た汚染物が河川などを通じて海へ流入する
●海底資源探査や沿岸域の開発などによる生態系の破壊
●廃棄物の海洋投棄
●船舶の運行に伴って生じる油、有害物質、廃物などの排出による汚染
●大気汚染物質が雨などを通じて海に流入する
●タンカー事故や戦争による汚染
日本における海洋汚染の現状も見てみましょう。海上保安庁によると、令和2年の日本近海における海洋汚染確認件数は453件、油による海洋汚染は286件、廃棄物による海洋汚染は158件でした(※2)。
加えて海洋ごみも大きな問題です。プラスチックや生ごみの海洋不法投棄検挙数は近年増加傾向にあります。また海洋ごみは、街や河川でのごみのポイ捨てや不法投棄が大半を占めているため、ごみ問題と合わせた解決策が求められています。
ゴミ問題の現状と課題については、こちらの記事で詳しく紹介していますので合わせてご覧ください。
⇒ゴミ問題の現状と課題は?循環型社会形成に向けて
SDGsの目標
SDGsの14番目の目標「海の豊かさを守ろう」には、「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」という注釈が付いています。
海洋汚染に関連した具体的なターゲットは以下です(※)。
14.1 2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する。
14.2 2020年までに、海洋及び沿岸の生態系に関する重大な悪影響を回避するため、強靱性(レジリエンス)の強化などによる持続的な管理と保護を行い、健全で生産的な海洋を実現するため、海洋及び沿岸の生態系の回復のための取組を行う。
14.3 あらゆるレベルでの科学的協力の促進などを通じて、海洋酸性化の影響を最小限化し、対処する。
14.5 2020年までに、国内法及び国際法に則り、最大限入手可能な科学情報に基づいて、少なくとも沿岸域及び海域の10パーセントを保全する。
加えて、過剰漁獲を防止するための開発途上国に対する補助金の導入や研究・技術機関の移転など海洋資源の保全と漁業・水産従事者への支援が盛り込まれており、環境保全と人の活動のサポートを同時に向上する狙いとなっています。
3.生物多様性
地球温暖化とも密接に絡む問題として、生物多様性の問題が挙げられます。SDGsでは15番目のゴール「陸の豊かさも守ろう」が該当しますが、具体的にはどのような課題があるのでしょうか。
生物多様性とは
生物多様性(Biological Diversity)とは、地球上に存在する生物が多種多様であり、複雑な生態系のもとで命のつながりがあることを指します。
地球には、人間だけではなく動物や植物、昆虫、微生物など違う生物がお互いに影響し合いながら生きています。違う生物同士のつながり、すなわち生態系は、地球上にあるすべての生命にとって欠かせないものです。
しかし近年その生態系が崩れ、生物多様性に影を落としています。生物の生息環境の悪化や生態系の破壊が深刻なものとなり、野生生物の種の絶滅が過去にない速度で進行しているのです。
このような状況は「生物多様性の危機」とされ、原因の分析と有効な対策が早急に求められています。人間が生きる上でも大切な生物多様性がどのような危機にさらされているのか、次からさらに詳しく見ていきましょう。
生物多様性の危機
地球上の生命はこれまで5回、大量絶滅の時期を経験してきました。一番近い世代の大量絶滅は白亜紀/古第三紀境界の6550万年前です。メキシコ湾に巨大隕石が落ちたことで、恐竜をはじめとする70%の生命が絶滅したと言われています。
そして現代、5大絶滅に続く6回目の大量絶滅期が迫っていると危惧されています。WWF(世界自然保護基金)の「Living Planet Report:生きている地球レポート」2020年版によると、過去50年で生物多様性は68%減少。地球上の種の絶滅のスピードは自然状態の約100~1000倍にも達しているのです(※1)。
これらの主な原因は、生物を取り巻く生息環境の悪化です。森林開発などで生息場所が消失し、環境汚染が原因で生息環境が劣化するなかで、野生動物は住みかを失いつつあります。
WWFが2018年に発表したデータによると、世界におけるマングローブの森の規模は過去50年間で30~50%が減少。浅海域のサンゴ礁は、過去30年間で半数が失われています。これらは、すべて人間による資源の使いすぎや汚染による結果です。
生物多様性の危機は、人類の生存にも大きく関わっています。自然のもたらす恩恵は、空気や水、食料、エネルギー、医薬品に加え、津波や土砂崩れといった災害による被害を抑えるといった「生態系サービス」まで及んでいるためです。
環境保全をはじめ、あらゆる方面から生物多様性の危機に対処しなければ、やがては人も生きる場所を失ってしまう恐れがあるのです(※2)。
環境問題解決の第1歩は知ることから
この記事では、世界が抱える環境問題についてSDGsを踏まえつつ解説しました。さまざまな観点から危機的状況が叫ばれていますが、解決は容易ではありません。
しかし、1人1人の取り組みが環境問題の改善に欠かせないことも確かです。そのためには、まずは問題の詳細について知ることが解決の第1歩です。
SDGsでは、7つ目に「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」という目標を掲げています。これは「すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する」こと、すなわち自然に優しい再生可能エネルギーの推奨です。
私たちが使う電気を再生可能エネルギーを利用したものに切り替えることで、環境問題解決の道につながります。
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