2022年に日産「サクラ」、三菱「ekクロスEV」が発売され、急速に注目を集めている軽自動車のEV(電気自動車)。価格が手頃で小回りが利く軽EVは、脱炭素社会の「生活の足」になる可能性が高いでしょう。軽EVにはどのような魅力があるのでしょうか?デメリットや気になる電気代についても解説します。
電気自動車(EV)の「軽」とは?
脱炭素化の動きから、近年は「電気自動車(EV)」に興味を持つ方が増えています。
電気自動車(EV)の基礎知識
電気自動車(EV)とは、電気を動力にして走る車両全般を指します。ガソリン車は、ガソリンの燃焼・圧縮によって回転運動を生じさせるのに対し、電気自動車(EV)は電気でモーターを動かして、タイヤを駆動させる仕組みです。
電気を動力にする車両には、さまざまな種類がありますが、電気自動車(EV)というと、バッテリーに蓄えた電気のみでモーターを動かす「BEV(Battery Electric Vehicle)」というタイプを指すのが一般的です。
電気自動車(EV)はガソリン車のようにCO₂を排出しないため、環境負荷の軽減につながります。
軽EVの定義
軽自動車の電気自動車は、俗に「軽EV」と呼ばれています。明確な定義はありませんが、車体のサイズが以下の規格に該当する電気自動車(EV)は、軽EVに該当すると考えてよいでしょう。
- 長さ:3.40m以下
- 幅:1.48m以下
- 高さ:2.00m以下
道路運送車両法において、自動車は「車体のサイズ」や「エンジンの総排気量」によって区分が決まっています。
既存の軽自動車は、「エンジンの総排気量が600cc以下のもの」と定義されていますが、電気自動車(EV)は排気量がゼロのため、主に車体のサイズによって区分が決まるのが特徴です。
将来的に軽EVが普及すると考えられる理由
現時点において、日本はガソリン車がメインですが、将来的には電気自動車(EV)や軽EVが増えるでしょう。普及が進む理由には、世界的な脱炭素化の動きや軽EVの利便性の高さ、EV充電設備の設置義務化などがあります。
脱炭素社会の推進
世界では、脱炭素社会の動きが加速しています。日本政府は、2050年までに温室効果ガスの排出を全体でゼロとする「カーボンニュートラル」の実現を表明しました。
地球温暖化の原因となる温室効果ガスの大部分はCO₂であり、ガソリン車は走行時に多くのCO₂を排出します。2020年度のデータを見ると、日本は運輸部門におけるCO₂排出量が17.7%と高く、うち自家用乗用車のCO₂排出量が45.7%を占めています。(※1)
日本政府は、2035年までに乗用車新車販売で電動車(EV・FCV・PHEV・HEV)100%という目標を掲げており、今後は自動車の電動化が加速するでしょう(※2)
⇒カーボンニュートラルについてもっと詳しく知りたい方はこちら
※出典: 自動車の“脱炭素化”のいま(前編)~日本の戦略は?電動車はどのくらい売れている?|スペシャルコンテンツ|資源エネルギー庁
※出典: 充電インフラ整備促進に向けた指針を策定しました (METI/経済産業省)
軽自動車の利便性の高さ
日本では、軽自動車が国内新車販売台数の約4割を占めています。自動車メーカーでは、電気自動車(EV)の普及の鍵は軽EVが握っていると見ており、今後は軽EVのラインナップが増える可能性が高いでしょう。
日本の道路の8割以上は道幅平均が3.9mの市町村道です。コンパクトな軽自動車は小回りが利いて扱いやすく、女性や高齢者にも人気があります。
地方に住む方にとって、軽自動車は重要なライフラインです。軽EVは、長距離ドライブにはあまり向いていませんが、生活の足としてはぴったりでしょう。
※出典: 知れば知るほどいいね!軽自動車
EV充電設備の設置義務化
電気自動車(EV)が普及しない理由の1つに、EVの充電設備が整備されていないことが考えられます。電気自動車(EV)は自宅での充電が基本ですが、マンションやアパートに住んでいる方は、充電設備の設置が難しいのが現実です。
電気自動車(EV)の普及に向け、東京都では「新築建築物へのEV充電設備の設置」を義務化する改正環境確保条例が2022年12月に制定されています。2025年4月より、大手住宅メーカーやマンションのディベロッパーなどは、新築建築物にEV充電設備を設置しなければなりません。
マンションやアパートにEVの充電設備が設置されれば、EVへの乗り換えを検討する方が増えるでしょう。
※出典: 環境確保条例・施行規則 新旧対照表|東京都環境局
軽EVの魅力とは?
車の買い替え予定がある方は、軽EVを選択肢の1つにするのもよいでしょう。軽EVには、ガソリン車や普通車の電気自動車(EV)にはない魅力やメリットがあります。
車両価格が手頃
軽EVは車両価格が比較的安く、国や自治体の補助金を使えば、既存の軽自動車とほぼ同じ価格にまで抑えられます。以下は、日産の電気自動車(EV)のラインナップです。(※1)
- 日産アリア:5,390,000円~
- 日産リーフ:4,081,000円~
- 日産サクラ:2,548,700円~
サクラは、日産で唯一の軽EVです。2022年および2023年度の「クリーンエネルギー自動車導入促進補助金」において、補助金の額は550,000円だったので、国の補助金を入れると200万円程度で購入することができます。(※2)
また、EV車両の購入に補助を出している自治体もあり、補助を出している自治体にお住まいの場合には、更に低価格で購入することも可能です。東京都では、2023年度には日産サクラ・三菱ekクロスに60万円の補助金(※3)・再エネ電力に契約で追加15万円の補助金を出しており、130万円程度で購入が可能でした。国や自治体の補助金情報は毎年変わるため、定期的にWebサイトをチェックしましょう。
※出典: 電気自動車とは?
※出典: 日産:サクラ [ SAKURA ] 軽自動車|価格・グレード|補助金・優遇策
ランニングコストを安く抑えられる
一般に軽自動車は普通自動車よりも税金や保険料などのランニングコストが安いですが、軽EVの場合、電気自動車自体がガソリン車よりもランニングコストが安いため、ランニングコストをかなり安くできることがメリットです。
まず、ガソリン代に比べて電気代の方が安いため、燃料費を抑えることができます。
さらに「グリーン化特例」や「エコカー減税」といった税金の優遇制度があり、ガソリン車よりも自動車税(種別割)や軽自動車税(種別割)、自動車重量税が安く済む点もメリットの一つです。
また、そもそも軽自動車自体、税金や保険料が安く設定されていますし、軽EVは車体が軽いことで一般的な電気自動車(EV)よりも電費が良いため、一層ランニングコストは安くなります。
EV車の電気代とガソリン車のガソリン代については、以下の記事で詳しく比較していますので合わせてご覧ください。
⇒電気自動車(EV)の自宅充電は可能か?必要な設備や費用を解説
運転にストレスを感じにくい
軽EVを含む電気自動車(EV)は、静かで加速性能に優れており、運転にストレスを感じにくいのがメリットです。
ガソリン車はエンジン始動時やアイドリングの時の音が大きく、早朝や深夜は住宅街に音が響きます。電気自動車(EV)には、騒音を発するエンジンがなく、音がほとんどありません。
また、EVは発進時から最大トルクを発生するため、走り出しがスムーズです。坂道でも余裕のある走りができるでしょう。
日産のサクラや三菱のeKクロスEVは、アクセルペダルだけで加減速をコントロールできるので、慣れれば運転が楽に感じるはずです。
軽EVの代表的な車種を紹介
軽EVは、ラインナップがそれほど多くありません。軽EVの国内市場では、日産の「サクラ」と三菱の「eKクロスEV」が高い人気を集めています。それぞれの特徴と基本的なスペックを紹介します。
日産「サクラ」
日本の美を感じさせる洗練されたデザインと電気自動車(EV)ならではの力強い走りが自慢の軽EVです。バッテリーの容量は20kWh、一充電走行距離(WLTC)は180kmで、通勤や通学、買い物などの日常使いに適しています。
ドライブモードは、「Eco」「Standard」「Sport」の3種類です。低重心化によって、揺れや衝撃が抑えられているため、段差の多い場所でも快適な走りが実感できるでしょう。
ボディーカラーは全15種類で、2トーンカラーの特別塗装色もあります。「水引デザイン」が施されたアルミホイールにも注目しましょう。
- 寸法:全長3,395mm×全幅1,475mm×全高1,655mm
- 乗車定員:4人
- バッテリー容量:20kWh
- 交流電力量消費率(WLTC):124Wh/km
- 一充電走行距離(WLTC):180km
- メーカー希望小売価格(消費税込):2,548,700 円 ~
三菱「eKクロスEV」
「eKクロスEV」は、サクラと共同開発された軽EVで、基本のスペックは同じで、大きな違いは外装・内装のデザインです。軽自動車の「eKクロス」のEVバージョンともいえ、車体デザインやインテリアはeKクロスがベースとなっています。
サクラと異なる点として、例えばサクラの場合、充電ケーブルはオプション設定となっており標準装備ではありません。しかし、eKクロスEVはコントロールボックス付充電ケーブル(AC200V)が標準装備されているのが特徴です。
衝突被害軽減ブレーキシステムや踏み間違い衝突防止アシストなど、事故を未然に防ぐサポート(三菱e-Assist)が充実しており、軽EVが初めての方でも安心して走りが楽しめます。
- 寸法:全長3,395mm×全幅1,475mm×全高1,655mm
- 乗車定員:4人
- バッテリー容量:20kWh
- 交流電力量消費率(WLTC):124Wh/km
- 一充電走行距離(WLTC):180km
- メーカー希望小売価格(消費税込):2,546,500円〜
軽EVにはデメリットもある
今後は、電気自動車(EV)への切り替えが徐々に進むと考えられますが、ガソリン車と性能がまったく同じではない点に留意すべきです。メリットだけでなく、デメリットもよく理解した上で、買い替えを検討しましょう。
ロングドライブには不向き
サクラやeKクロスEVのスペックからもわかるように、軽EVの一充電走行距離(1回の充電で走行が可能な距離)は、200km前後のため、
ロングドライブの際は追加の充電が必要になります。最近は充電スポットが増加傾向にあるとはいえ、未だガソリンスタンドよりも少ないのが事実です。
そのため、ロングドライブの際は、充電スポットを気にしながら運転することになり、その点では若干の不便さを感じるでしょう。
しかし、一度の充電で200kmの走行は可能なため、日常使いであれば軽EVで十分です。軽EVは、出勤や買い物、送迎といった日常使いに適しています。県外への旅行や出張でない限り、日常で不便さを感じるシーンはほぼないでしょう。
ラインナップが少ない
ガソリン車に比べると、電気自動車(EV)は、車種がそれほど多くありません。軽EVともなれば、選べる車種はさらに限られてきます。
ただ、大手自動車メーカーの多くは、軽自動車の電動化に力を入れる意向を示しています。将来は、軽EVのラインナップが豊富になり、車を選ぶ楽しみが増えるはずです。
ホンダは、軽商用バンを皮切りにEV展開を本格スタートさせることをWebサイトで発表しています。
※出典: 2024年春発売予定の「N-VAN e:」をホームページで先行公開
月々の電気代が増える
電気自動車の電気代は、ガソリン車のガソリン代よりも安いものの、電気代に占めるEVの充電にかかる金額は大きく、ガソリン車から軽EVに乗り換えれば、月々の電気代が増えます。電力使用量が多いため、電気代をいかに抑えるかを考えなければなりません。
電気自動車(EV)のカタログには「交流電力量消費率」が記載されているのが一般的です。1km走るのに必要な電力量のことで、「電費」とも呼ばれます。
交流電力量消費率が124Wh/kmの軽EVで年間10,000km走行する場合、月々の電力使用量は約103.3kWh(0.124kWh/km×10,000km ÷12カ月)です。1kWhあたりの電気代を31円(税込)として計算すると、EVの電気代だけで約3,202円かかります。環境省の調査(※2)によると、戸建て家庭の平均的な電気消費量が月間444kWh程度なので、これはその約4分の1にあたる大きな量です。
※1kWhあたりの電気代は、全国家庭電気製品公正取引協議会が公表している「全国の電力料金を踏まえた目安単価」を使用。
※2 ** 環境省(2022.3)「令和2年度家庭部門の CO2排出実態統計調査資料編(確報値)」p28 図1-50より。戸建て1世帯当たり年間電力消費量が19.2GJとある。
電気自動車(EV)の電気代をお得にするなら?
電気自動車(EV)の購入後は、月々の電気代がこれまで以上に高くなります。電気の使用を控える以外の方法で、電気代をお得にする方法がないかを考えてみましょう。
まずは電力会社・プランの見直しから
これまで、家庭用の電力は地域ごとに決まった電力会社から供給されていましたが、電力小売自由化の後は、利用者が電力会社を自由に選べます。まずは、電力会社やプランを見直すところから始めましょう。
電気自動車(EV)の充電で特に注意すべきなのは、使用量に応じて課金される従量料金と契約アンペアに応じて課金される基本料金の2点です。
電気の使用量が増えるので従量料金の増加はイメージしやすいのですが、EV充電器設置を機に契約アンペアが上がることで基本料金が増加する点を把握しきれていない方も多いです。コンセント型充電器で充電すると一度に3kWの電流が流れますが、これは30A分・1200kWドライヤー2.5台分もの大電流であり、多くの場合で契約アンペアを上げる必要があります。その結果、電気代が想定よりも高くなってしまう可能性があるため、基本料金が0円の電気料金プランの契約を検討してみましょう。
または、充電出力の調整機能がついており、低出力での充電が可能な”スマート充電器”と呼ばれる充電器を購入し、契約アンペアを据え置きまたは少量のみの増設に抑えるという手もあります。電気自動車(EV)はガソリン車と違い、自宅でいつでも充電できるので、こまめに充電することで、低出力でも十分に充電しきることが可能です。
たとえば、50km走るごとに充電するとすると、1.2kWで低速充電したとしても、充電にかかる時間は約4.6時間で、十分に充電することが可能です。(電費は日産サクラの9.0km/kWhとして(※))
計算式: 50km ÷ 9.0km/kWh ÷ 1.2kW ≒ 4.6時間
電気自動車(EV)の自宅充電について、以下の記事で詳しく紹介しておりますので合わせてご覧ください。
⇒電気自動車(EV)の自宅充電は可能か?必要な設備や費用を解説
(※)日産サクラの電費は、WLTCモードでの一充電走行距離180kmと、バッテリー容量20kWhから計算。
その上で従量料金ができるだけ安くなるプランを選んでください。例えば、東京電力等の地域の電力会社は通常「3段階料金制」という、使用量が多くなるほど電気料金の単価が上がるという料金設計をしており、EV充電で使用量が増えると電気代が大きく上がる恐れがあるため電気自動車(EV)との相性が良いとは言えません。
市場連動型プランでさらに電気代の節約が可能
市場連動型プランとは、電力の市場価格に応じて、30分ごとに電気料金単価が変わるプランのことです。一般的な電気料金のプランは、電気料金の単価があらかじめ決まっていますが、「市場連動型プラン」は、市場価格の動きに合わせて単価が毎日に変動するのが特徴です。
市場連動型プランは、深夜や再エネの発電が多く電気の余っている昼間に、電気料金単価が特に安くなります。また、休日の方が平日よりも安い傾向があります。電気自動車(EV)についている充電タイマーなどを安くなる時間帯に設定したり、土日の昼間にまとめて充電したりすれば、とてもお得に充電ができるのでおすすめです。
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太陽光発電の設置も検討しよう
電気自動車(EV)の購入と同時に、自宅に太陽光発電システムを設置するご家庭が増えています。ご家庭の太陽光発電で発電した電気で充電すれば、電気代が大幅に削減できるほか、CO2フリーのエコなドライブをすることができるためです。また、”V2H”という機器を導入すると、電気自動車に充電するだけでなく、電気自動車(EV)に蓄えられた電気を家に供給することができます。V2Hとは「Vehicle to Home(車から家へ)」の略称で、電気自動車(EV)と家の間で、双方向の電力供給を行う仕組みを意味します。災害時などに非常用電源としてEVを使用することができるようになるので、災害に備えたいという方の中でV2H機器が人気となっています。
脱炭素社会では軽EVが生活の足になる
日本はまだまだガソリン車が主流ですが、脱炭素化が進めば、軽EVが生活の足となっていくでしょう。
軽EVにはメリットとデメリットがあり、ガソリン車と完全に同じ使い方ができるわけではありません。ガソリン代がかからなくなる分、電気代が高くなるのは避けられないため、電気とうまく付き合っていく方法を考える必要があります。
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