政府は2050年までにカーボンニュートラルゼロを目指しています。このために、今注目されているのが住宅用太陽光発電です。近年、住宅の屋根に設置された太陽光パネルもかなり見かけるようになりましたが、太陽光発電を設置して「どれぐらい得するのだろうか」と興味を持ちながらも、設置に迷っておられる方も多いのではないでしょうか。
そこで、この記事では、太陽光発電にかかる費用や売電による収入、コスト削減などについて紹介するとともに、電気代節約のポイントについても解説します。
太陽光発電の導入について
まず、太陽光発電の導入に必要な設備とかかる費用、運転維持費について見てみましょう。
太陽光発電に必要な設備
太陽光発電に必要な設備は、太陽光発電パネル、パワーコンディショナー(パワコン)、架台、電力量計、発電モニターなどです。
太陽光発電パネルはソーラーパネル、太陽光モジュールとも呼ばれます。半導体で構成され、太陽光が当たると電子の流れ、つまり電気を発生します。この太陽光パネルを住宅の屋根に設置・固定する部材が架台です。
パワコンは、太陽光発電パネルでつくられた直流電気を家庭などで使われている交流に変換するものです。電力量計は2つ設置され、1つは電力会社への売電量、もう1つは電力会社からの電力購入量つまり買電量を計測します。
発電モニターは、太陽光発電の発電量や家で使っている電力状況、売電量などをチェックできます。
太陽光発電の導入にかかる費用
住宅用太陽光発電システムを導入する場合の費用について、見てみましょう。
発電システムの導入費は、新築の場合と既築の場合で異なります。経済産業省調達価格等算定委員会によれば、新築の場合、2020年の平均値は28.6万円/kW(2019年比0.7万円減)、既築の平均値は32.7万円/kW(同0.3万円減)で、全体の平均は29.8万円/kW(0.8万円減)です。
新築の場合におけるシステムの費用の内訳は、太陽光パネル17.4万円/kW、パワコン4.4万円/kW、架台2.3万円/kW、その他0.2万円/kW、工事費6.0万円/kWで、合計30.3万円/kWとなります。この金額から1.6万円kWの値引きがあるので、平均値が28.6万円/kWとなっています。
したがって、一般家庭の新築用住宅に発電量4.5kWの設備を設置すると128.7万円で、7.2万円値引きされるので121.5万円となります。
一方、運転維持費を見ると、3~4年に1回程度の定期点検、20年に一度のパワコンの交換などが行われ、kWあたりの年間維持費に換算すると、3,490円/kW/年となっています。
太陽光発電の導入にかかる費用の目安 | ||
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導入費 | 運転維持費 | |
新築 | 28.6万円/kW | 3,490円/kW/年 |
既築 | 32.7万円/kW |
太陽光発電の導入が節約につながる理由
太陽光発電を導入した場合、電気代の節約が可能になります。その理由について、以下で説明します。
発電した電気は無料で使うことができる
自宅で太陽光発電を行っている場合、日中は発電量が多いため、消費する電気は無料で使うことができます。しかし、夜間や悪天候の場合は、電力会社から電気を購入する必要があります。
固定価格買取制度(FIT)を利用すれば、現在、住宅の屋根などに載せる10kW未満の太陽光発電の場合、10年間は固定価格で買い取ってもらうことができます(※)。日中の発電量のうち、自宅で消費する電力以外の余剰電力は電力会社に買い取ってもらう(売電する)ことができ、FIT終了後も売電価格は下がりますが、契約して売電を続けられます。
電気の単価が安くなる
電力会社から購入している電気は、一般的に使った電気の量に応じて料金が計算されます。料金単価は使用量に応じて3段階に分けて課金される仕組みになっていて、電気を多く使うほど高い単価で料金を払うことになります。しかし、自家発電で電気の購入量を減らすと、電気の単価を安くすることができます。
例えば、東京電力の従量電灯の場合、単価は0~120kWh(第1段階)が単価19円43銭/kWh、120~300kWh(第2段階)は25円91銭/kWh、300kWh以上(第3段階)は29円93銭/kWhとなっています(2022年3月1日現在)。
したがって、これまで第3段階まで電気を使っていた方が、太陽光発電の電気を自宅で使うことで第2段階までの電力量で収まれば、第3段階の高い単価が適用されなくなるので、その分電気代が減ります。
再エネ賦課金の負担が少なくなる
FIT(固定価格買取制度)では、再生可能エネルギーの普及のために、消費者の電力消費量に応じて再エネ賦課金(再生可能エネルギー発電促進賦課金)を上乗せして、太陽光発電など再生可能エネルギーの買取に必要なコストを賄っています。つまり、再生エネルギーの普及に必要なコストを、国民全体で負担する仕組みとなっています。
太陽光発電の電気を自宅で消費した場合、その分、電力会社から購入する電力消費量が減りますが、その分電気代を節約できるだけでなく、購入電力量が減るので上乗せされている再エネ賦課金の負担額も減らすことができます。
太陽光発電の注意点
では、太陽光発電で発電した電力だけで電気代を0円にすることができるのでしょうか。発電量と使用量によっては0円を実現できるとされますが、実際に電気代を0円にすることは簡単ではありません。その理由について、以下で説明します。
天候や季節によって発電量が左右される
太陽光発電の電気を利用して購入する電気代をゼロにすることが難しい理由の1つは、太陽光発電は太陽の光に影響されるので、天候や季節によって日照時間が少なくなると発電量が減ることにあります。
日本には、梅雨や秋の長雨など雨が多い季節があります。春先も雨が多く、夏から秋にかけて台風も多く襲来します。冬には日本海側を中心に多くの地域で曇りや雨、雪の日が多くなります。曇りや雨の日では、発電量は晴天時に比べて大幅に低下し、太陽光パネルに積雪があれば、発電量はゼロになります。
夜間はもちろんですが、発電量の低下があれば、電力会社から電力を購入しなければならないので、売電収入と相殺しても電気代をゼロにするのは簡単ではありません。
太陽光発電だけでは電気を溜めておくことができない
太陽光発電設備だけでは、発電した電気を溜めておくことができないので、自家消費した分以外は、電力会社に売電することになります。夜間は電力会社から電気を購入するので、電気代を売電収入で賄うには夜間の電力消費を抑えるしかありません。
それには、夜間に行っている家事などを日中に行うことなどが考えられます。しかし、昼間、勤務している場合などは、それも難しいでしょう。また、夜間の安い電気を使用した方が昼間の電気を使うより安くなる場合もあります。
蓄電池を利用すれば、昼間発電した電気を溜め、夜間に使用する電力量に充てることができます。しかし、蓄電池の設置費用は安くはないので、太陽光発電設備と蓄電池のトータルのコストと電気代の削減や売電収入などをよく検討する必要があります。
売電価格が値下がりしている
FITによる電気の買取単価が、年々値下がりしていることも、電気代をゼロにすることを難しくしています。電気代をゼロにするには、ある程度の売電収入が必要ですが、売電価格の値下がりが売電収入を減少させています。
売電価格はFITによって決められていて、住宅などの10kW未満の設備の場合、買取制度が始まった2012年の価格は42円/kWhと非常に高い価格で電力会社に買い取ってもらえました。しかし、その後、買取価格は次第に下がり、2021年度は19円/kWhとなり、今後もさらに低下すると予想されています。
加えて、FITは10年間の買取を保証していますが、期間終了後の価格は保証されていないので、さらに安くなる可能性があります。
太陽光発電で電気代を0円に近づける方法
太陽光発電は、自家消費によって電気代を節約でき、売電によって収入を得られます。では、電気代を0円に近づけるにはどのような方法があるでしょうか。以下で説明します。
電気の使用量を減らす
1つ目の方法は、電気の使用量を減らすことです。それには、まず日頃から節電を心掛けることが大事になります。例えば、冷蔵庫の温度を変更する、テレビや照明をつけっ放しにしないでこまめに切るなど、毎日の節電の積み重ねで電気代を減らすことができます。
また、発電可能な時間帯や発電量をチェックしながら、買電量を減らす工夫をしてみることも大切です。特に夜間に行っている家事をできるだけ日中に行えば、夜間の電力消費が抑えられます。
さらに、節電しやすくするためには、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステムの略でヘムスと読みます)を家に設置することもおすすめです。HEMSはすべての電化製品とネットワークでつないで電力消費量が確認できるうえ、家庭内のエネルギー使用が最適となるように制御する機能もあります。政府は2030年までにHEMSを全世帯に普及させる予定です。
蓄電池の活用
2つ目の方法は、蓄電池の活用です。
蓄電池は電気を溜めておくことができるので、日中に太陽光で発電した電気を夜間や悪天候時に使用すれば、買電量を減らすことができます。また、蓄電池は災害時の非常用電力としても活用することができるので、一石二鳥の設備と言えます。
経済産業省によれば、2022年1月現在、FIT新規認定分は1,691,232件807.3万kWなので、住宅用の太陽光発電は、1件当たり平均は4.77kWになります。これに対して、日本電機工業会によれば、住宅用蓄電池の平均は、2017年度出荷統計では6.3kWhとなっています。したがって、通常、住宅用の太陽光発電は4~5kW程度で、これに対応した蓄電池容量は5~7kWh程度と言えます。
しかし、蓄電池の導入には、費用がかかります。経済産業省によれば価格と工事費の相場は18.7万円/kWhで、容量が5~7kWhの蓄電池なら100万円前後かかります。自治体によっては、太陽光発電や蓄電池の設置に補助制度を設けているところもあるので、利用することをおすすめします。
電力会社やプランの切り替えを検討する
太陽光発電を利用しているご家庭では、発電した電力を自家消費して昼間の電気は無料で使えますが、夜間は電力会社の電気を購入するしかありません。
こうした中で、電力小売自由化によって新電力と呼ばれる企業がたくさん生まれていますが、そうした企業の中には安く電気を提供する企業も増えています。夜間の電気代を安く提供している企業もあり、夜間の電力消費が多いご家庭の場合、夜間の電気代を安く提供する企業の電力料金プランに乗り換えることによって、大幅に電気代を減らすことができます。
新電力でなくても、地域の大手電力会社によっては、安い夜間の電力料金プランを提供しています。これらの安い料金プランの利用を検討してみてはいかがでしょうか。
売電と自家消費ではどちらの方がお得?
太陽光で発電した電力を電力会社に売るのと自家消費するのでは、どちらが得するでしょうか。太陽光発電の場合、日中晴れていれば、家庭で消費した電力の残りを電力会社に売電できます。しかし、夜間の場合や天候が悪い場合は、電力会社から電気を購入しなければなりません。
現在、電力会社によって異なりますが、東京電力の電気料金は3段階料金となっていて、最初の120kWhまでが19円88銭、120~330kWhが26円48銭、300kWh超は30円57銭です。
一方、売電単価は、FITによって2022年度17円/kWhなので、買電単価の方がはるかに高くなります。したがって、昼間は自家発電による電力をできるだけ使い、夜間や悪天候時には使用する電気を極力節約する必要があります。夜間の低料金プランの利用もおすすめです。
自家消費でどのくらい節約できるのか
太陽光発電による電力を自家消費した場合、どのくらい節約できるのかを試算してみましょう。
例えば、4人家族の世帯で、東京電力の従量電灯Bの単価の場合、電気契約が40A(基本料金1,144円)、1カ月の電気使用料400kWhとすると、太陽光発電設置前の1カ月の電気料金は下表総計欄にあるように12,533円となります(※1)。
太陽光発電を導入後では、日中の電気使用割合を40%とすると、昼間の電力消費分160kWhが自家消費にできることになります。残りの消費電力は300kWhまで使用段階に応じて課金されますが、300kWh超は0円となります。再エネ賦課金も自家消費分を引いた240kWhに対して単価3.36円がかかるので、806.4円となります(※2)。
この結果、太陽光発電導入後の電気料金は、下表右下にあるように7,513.6円となり、設置前より5,183.4円節約できます。
なお、この情報は2022年3月14日時点のものです。最新情報は公式のWebサイトをご確認ください。
太陽光発電による節約効果 (東京電力従量電灯B 40Aの場合) |
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太陽光発電設置前 | 太陽光発電設置後 | ||||
料金の項目 | 単価/kWh | 使用量 | 料金 | 使用量 | 電気料金 |
基本料金 | - | - | 1,144円 | - | 1,144円 |
~120kWh | 19.88円 | 120kWh | 2,385.6円 | 120kWh | 2,385.6円 |
121~300kWh | 26.48円 | 180kWh | 4,766.4円 | 120kWh | 3,177.6円 |
300kWh超 | 30.57円 | 100kWh | 3,057円 | 0kWh | 0円 |
再生エネ賦課金 | 3.36円 | 400kWh | 1,344円 | 240kWh | 806.4円 |
総計 | - | - | 12,697円 | - | 7,513.6円 |
太陽光発電の売電価格や設置するメリットについては、こちらの記事で詳しく紹介していますので合わせてご覧ください。
⇒太陽光発電はお得? 売電価格や設置するメリットをご紹介
【ケース別】太陽光発電を使った電気代節約方法
電気使用量やライフスタイルごとにどれだけ節約できるかは変わってきます。代表的な3つのケースをご紹介します。
日中は外出が多い家庭の場合
日中は外出が多いご家庭の場合、日中は電気をほとんど使うことがないため、発電した電気の多くを売電に回すことができます。特にFITが適用される10年間は売電の価格も高いため、売電収入で太陽光設備の費用を賄うこともできるでしょう。
日中の電気使用量が多い家庭の場合
日中自宅にいることが多く、電気使用量が多いご家庭は発電した電気を自家消費することで大きな節約効果が期待できるでしょう。もし電気が余れば売電に回し、売電収入を得ることもできます。
毎月の電気代があまり高くない家庭の場合
日中も電気を使用するが、あまり電気代が高くないご家庭の場合は自家消費と売電を組み合わせることで節約効果が期待できるでしょう。さらに蓄電池を活用し、日中に発電した電気を夜の電気使用に活用すれば電気代を0円に近づけることもできるでしょう。
太陽光を活用して電気代を節約しよう
住宅用太陽光発電を利用することによって、電力会社から購入する電気を削減でき、電気代を節約できるメリットがあります。また、日中天気が良ければ、自宅で消費した電気の余剰分を電力会社に買い取ってもらえるので、売電収入が得られます。
しかし、日中悪天候の場合や夜間は電気を購入する必要があるため、電気代を0円にできるかどうかは、さまざまな条件によって変わってきます。特に注意が必要なのは、今後、FITの買取価格は下がる一方なので、売電収入に期待するより、蓄電池を設置するなどして夜間の電気も自家消費するなど、単価の高い買電の購入量を減らす工夫がポイントになるでしょう。
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