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老後の生活費 老後の生活費

「老後30年で約2,000万円が不足する」

2019年金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」において老後資金に関する試算が公表されました。2,000万円という高額に、衝撃を受けた方も多いでしょう。一朝一夕で貯まる金額ではありません。年金だけで老後をしのげるのか、不安に思う方も多いと思われます。

そこでこちらの記事では、統計や平均値などの客観的なデータを踏まえたうえで、老後の生活費における具体的な対策について解説します。

※出典:金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書「高齢社会における資産形成・管理」(金融庁)

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意識調査からみる老後の生活費

意識調査からみる老後の生活費 意識調査からみる老後の生活費

現在「老後2,000万円」という言葉は衝撃ですが、世間では老後の生活費についてどう意識されているのでしょうか。
生命保険文化センターの調査によると、20代から60代の男女のアンケート(※)では以下の結果になりました。老後の生活費を準備するうえで、一般的な世間の認識は参考になると思われます。

  • 最低日常生活費の平均額が月額22.1万円
  • ゆとりある老後生活費の平均額が36.1万円

ここでの最低日常生活費とは、衣食住を満たすうえで最低限必要な生活費を意味します。ゆとりある老後の生活費とは、旅行やレジャーなどを楽しめる程度の十分な生活費を指します。

最低限の生活だけでなく、旅行やレジャーといった余暇を過ごすためには、最低日常生活費にプラス14万円程必要なことがわかります。この差額があることから、「老後2,000万円問題」として騒がれることとなったのです。

老後は最低日常生活費があれば十分とお考えの方もいるでしょう。ただ現役世代と違って無職であると、人との交流が減ってしまいます。旅行やレジャー、趣味や教養といった時間は、余暇を楽しむと同時に人と交流する時間でもあります。人々とふれあう時間を確保する意味でも余暇を楽しむ費用は大切です。

そのためにも最低限の生活費に加えて、ゆとりある老後の生活費を確保する必要があります。

※出典:生命保険文化センター 令和元年度生活保障に関する調査

統計からみる実際の老後の生活費

では実際の老後生活は、どのような収支になっているのでしょうか。

ひとえに老後の生活費といっても、夫婦か単身かで必要な費用は違ってきます。ここでは、夫婦世帯と単身世帯に分けたうえで収支について解説します。意識調査に加えて老後生活における具体的な金額を知ることで、老後の生活費の実態を知ることが可能です。

高齢者世帯の支出平均値

以下の表が高齢者無職夫婦世帯の支出平均値の表になります。高齢無職世帯とは、世帯主が60歳以上の無職世帯を指します。

高齢者無職夫婦世帯の支出平均値
費用項目 毎月の平均支出 消費支出に占める割合
消費支出 23万9,947円 100%
食料 6万6,458円 27.7%
住居 1万3,625円 5.7%
光熱・水道 1万9,983円 8.3%
家具・家事用品 1万100円 4.2%
被服及び履物 6,065円 2.5%
保険医療 1万5,759円 6.6%
交通・通信 2万8,328円 11.8%
教育 20円 0.0%
教養・娯楽 2万4,804円 10.3%
その他の消費支出 5万4,806円 22.8%
非消費支出 3万982円
直接税 1万1,976円
社会保険料 1万8,966円
合計(消費支出+非消費支出) 27万929円

※出典:家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年)結果の概要

これらの表は、消費支出と非消費支出の項目で大きく分類されています。
消費支出とは、いわゆる生活費の支払いです。日常生活を営むうえで、必要なモノやサービスに対する支出を意味します。
非消費支出とは税金や保険料のことで、自由に金額を設定できない社会的支出のことです。

続いて、高齢単身無職世帯の支出平均値の表をご紹介します。

高齢単身無職世帯の支出平均値
費用項目 毎月の平均支出 消費支出に占める割合
消費支出 13万9,739円 100%
食料 3万5,883円 25.7%
住居 1万2,916円 9.2%
光熱・水道 1万3,055円 9.3%
家具・家事用品 5,681円 4.1%
被服及び履物 3,659円 2.6%
保険医療 8,445円 6.0%
交通・通信 1万3,117円 9.4%
教育 47円 0.0%
教養・娯楽 1万6,547円 11.8%
その他の消費支出 3万389円 21.7%
非消費支出 1万2,061円
直接税 6,245円
社会保険料 5,808円
合計(消費支出+非消費支出) 15万1,800円

※出典:家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年)結果の概要

この表から、高齢単身無職世帯の毎月の支出平均値は約15万円だとわかります。高齢者夫婦無職世帯の毎月の平均支出は約27万円なので、金額差は約2倍です。

夫婦だと2人分の生活費や税金の支払いがあるので、単身と夫婦で2倍の金額差が生じるのは、妥当な範囲といえるでしょう。

高齢者世帯の収入平均値

高齢者無職夫婦世帯と高齢単身無職世帯の平均支出がわかったところで、次に収入の平均値をご紹介します。総務省統計局による家計調査(※)によると、夫婦世帯、単身世帯の収入平均値(年金を含む)は、それぞれ以下の数値です。

高齢者無職夫婦世帯 23万7,659円
高齢単身無職世帯  12万4,710円

収入の平均値から支出の平均値を引いた結果、高齢者無職夫婦世帯では、33,270円のマイナス、高齢単身無職世帯では、27,090円のマイナスです。

つまり夫婦世帯、単身世帯ともに平均して毎月赤字であり、不足分を預貯金等から補てんして生活している方が多いことがわかります。

前章で見た、生命保険文化センターのアンケート調査の数字と比較してみましょう。高齢者無職夫婦世帯の平均収入23万7,659円は、最低日常生活費の平均額である22.1万円を上回っているものの、ゆとりある老後生活費の平均額36.1万円を12.3万円下回っていることになります。

※出典:家計調査年報(家計収支編)2019年(令和元年)結果の概要

生活費以外で気になる老後のお金

老後のお金 老後のお金

必要なお金は生活費だけではありません。病気や事故に遭ったときなど、不測の事態による支出も当然あり得ます。老後となると身体も弱ってきますので、その分病院代や薬代などの出費が増えることも多いでしょう。

以下の項目では老後における生活費以外で、必要なお金について詳しく解説します。

医療費

高齢者になったとき、一番気になるのが自分自身の健康ではないでしょうか。若いころと比べて病気にかかりやすくなったり、ケガが治りにくくなったりすることは仕方のないことです。

加齢により病気や手術するリスクが上がるため、それに備えた医療費の準備が必要です。
また一定の限度額を超えて医療費を支払った場合に、限度額を超えた分の医療費が返ってくる高額医療制度(※)もあります。限度額は年齢や所得によって計算されるため、個人の状況に応じて金額は違ってきます。

医療保険に加えて、高額医療制度のような行政による支援も活用することで老後の医療費に備えましょう。

※出典:高額医療制度を利用される皆さまへ-厚生労働省ホームページ

介護費

老後でも自立した生活を送りたいものですが、病気やケガにより介護が必要な方も多くいらっしゃいます。介護が必要な場合は、国により介護が受けられる公的介護保険制度の活用も考えられます。

公的介護保険制度は、65歳以上の高齢者や40~64歳で医療保険に加入している方が強制的に加入する制度です(※1)。公的介護制度を利用することで、老人ホームや自宅で食事補助やリハビリなどの介護を受けることが可能です。

公的介護を受けるにあたって、サービス料の1割から3割を自分で負担する必要があります(※2)。また老人ホームなどの施設を利用した場合は、居住費、食費、日常生活費も自分で負担しなければなりません。介護にかかるサービス料や施設等に入居した場合にかかる費用は、あらかじめの準備が大切です。

※1 出典:介護保険制度の内容-厚生労働省ホームページ
※2 出典:LIFULL介護-介護保険制度とは?しくみをくわしく説明します

住居費

住居に関する費用は、持ち家か賃貸かで支出額が大きく違ってきます。賃貸の場合は、住居費として家賃の支払いを続けなければなりません。一方で持ち家の場合は、自分の家であり家賃に相当する支出はないため、その分住居費は安くなります。

家賃は住む場所や築年数等によって大きく変動するため、家賃支出は予測しにくいです。ただ高齢になると長距離の移動が負担になるため、病院やコンビニが近い場所が高齢者に好まれる傾向にあります。よって老後の家賃をシミュレーションする場合は、利便性の高い場所に住む可能性を考慮して計算するのがいいでしょう。

前章でご紹介した家計調査年報によると、高齢者の多くは持ち家世帯であるため、家賃の支払いはなく平均住居費も安く抑えられています。ただ持ち家といっても、住居費の支出が0になるわけではありません。修繕費や災害復旧費など、持ち家の維持費を用意する必要があります。豪雨や台風、地震などの自然災害は日本では珍しくありません。災害復旧費の事前準備は特に重要になります。

緊急予備資金

上記の主要な出費のほかに、緊急時の予備的資金も準備しておくことをおすすめします。
予備資金としてまず挙げられるのが、冠婚葬祭の費用です。特に高齢になると知人などが亡くなる場面が多くなるため、葬式の香典代などの出費が増えます。

また、万が一自分が亡くなった場合の葬儀代もできれば用意したいものです。自分の葬儀代は葬儀会場や葬儀形式を指定することで、ある程度の金額が予測できます。あらかじめ自分の葬儀代を用意しておくことで、遺族の経済的負担は軽減されます。

子どもがいる場合は、子どもの結婚費用や出産祝いなども必要になるでしょう。その他新居購入の援助や孫の誕生祝いでも、予備資金が必要になります。

老後の生活費不足を補う方法

年金以外いくら必要になるのか

先ほどの高齢者世帯の収入平均値と支出平均値の項目より、高齢者無職夫婦世帯では、33,270円の赤字、高齢単身無職世帯では27,090円の赤字であることがわかっています。

2020年の日本人の平均寿命は、男性が81.64歳、女性が87.74歳です(※)。現状65歳を定年にしている企業が多いことを踏まえると、定年から平均寿命までの約20年分の生活費を何らかの手段で確保しておく必要があります。

平均寿命まで確保が必要な具体的な金額は、以下になります。

高齢者無職夫婦世帯 33,270円(毎月の不足分)×12(カ月)×20(年)=798万4,800円
高齢単身無職世帯  27,090円(毎月の不足分)×12(カ月)×20(年)=650万1,600円

上記金額は、あくまで老後を過ごすための最低ラインの金額です。ゆとりある老後を過ごすためには、さらに多くのお金を用意する必要があります。前に指摘した高齢者無職夫婦世帯での毎月12.3万円の不足をもとに計算すると以下になります。

12.3万円(ゆとりある老後のための毎月の不足分)×12(カ月)×20(年)=2,952万円

これだけのまとまった金額を用意するためには、預貯金以外の方法も考えなくてはいけません。冒頭に取り上げた「老後2,000万円」を問題提起した金融庁の金融審議会「市場ワーキング・グループ」が指摘したように、資産形成が必要になってくるのです。

※出典:令和2年簡易生命表の概況|厚生労働省(1 主な年齢の平均余命)

財形貯蓄制度

預貯金以外に財産を積み立てる代表的な方法として、財形貯蓄制度が挙げられます。財形貯蓄制度を利用するためには、勤務先で制度が導入されていることが条件になります。

財産貯蓄制度は、一般財形貯蓄、財形住宅貯蓄、財形年金貯蓄の3つです。積立商品の種類は、定期預金、生命保険、損害保険、投資信託など多岐にわたります。

財形貯蓄制度
一般財形貯蓄 財形住宅貯蓄 財形年金貯蓄
対象者 財形貯蓄制度が導入されている企業の従業員 財形貯蓄制度が導入されている企業の従業員
満55歳未満の方
利用目的 制限なし 新築・住宅購入・リフォームの資金形成 老後の年金資金形成
積立期間 原則3年以上 原則5年以上 原則5年以上
払い出しの時期 原則条件なし 住宅取得前後2回まで 60歳以降、年金形成で受け取り
非課税措置 なし 財形年金貯蓄と合算して、元利合計550万円までは利子等が対象(保険型は払込累計550万円まで) 財形住宅貯蓄と合算して、元利合計550万円までは利子等が対象(保険商品の場合は払込総額385万円まで)
積立商品の種類 定期預金、保険(生命保険、損害保険など)、投資信託、国債・社債などの有価証券など

一般財形貯蓄は、年齢制限なしで財産の積み立てができる制度です。積み立てがどのような目的であっても構いません。積立期間は原則3年以上で、払い出し(解約)の時期も自由です。

ただ一般的な預金と同様に、利子に対して約20%の税金が課せられます。非課税措置が取られていないのが、一般財形貯蓄のデメリットといえるでしょう。

財形住宅貯蓄は、住宅の購入やリフォームを目的として財産を積み立てる制度です。一般財形貯蓄と違い、満55歳未満の方だけが利用できます。財形住宅貯蓄では、非課税措置が取られていて、550万円までの貯蓄に対する利子には税金がかかりません。また積立期間は原則5年以上で、払い出しの時期も、住宅取得前後の2回までとされています。

住宅取得外でも払い出しができますが、その場合は過去5年分の利子が課税対象となるため、ご注意ください。

財形年金貯蓄とは、老後の資金作りのための積立制度です。財形住宅貯蓄と同様年齢制限があり、満55歳未満であることが条件です。積立期間は原則5年以上であり、60歳以降に年金形式で受け取ります。受給期間は60歳以降で5年以上20年以内です。

財形年金貯蓄でも非課税処置があり、550万円までの利息は税金がかかりません。また他の制度との併用も可能で、その場合は「財形年金貯蓄+他の財形貯蓄=550万円まで非課税」となります。

個人型確定拠出年金(iDeCo)

個人型確定拠出年金(iDeCo)とは、国が創設した私的年金制度です(※1)(以下、iDeCoと呼びます)。iDeCoは、毎月支払う金額(掛け金)を5,000円から自分で設定できます。また掛け金の運用方法も自分で選ぶことができ、その運用で得た利益を掛け金に加えて受け取ることが可能です。受け取り方法は一括払いと年金形式のどちらかを選択できます。

iDeCoは、20歳以上60歳未満の全ての方が加入することが可能です。60歳以降に給付を受け取ることができますが、原則60歳までは掛け金を引き出せませんのでご注意ください(※2)。

iDeCoでは、掛け金、運用益、そして給付を受け取ることに、税制上の優遇措置が受けられます。税制上の優遇措置とは、全額所得控除の対象になる点などが挙げられます。所得控除による住民税や所得税の軽減が可能です。節税しながら老後の資金を積み立てたい方に、おすすめできる制度です。

ただ注意点として、iDeCoは掛け金の運用で利益を出す制度です。元本確保型商品を除いて、元本割れする可能性もあります。ここでいう元本とは、掛け金の総額になります。運用がうまくいけば、掛け金以上の給付が期待できますが、運用が失敗すれば、掛け金を下回る給付もあり得るのです。

iDeCoを利用する場合は、リスクがあることも理解しておく必要があるでしょう。

※1、2 出典:iDeCo公式サイト

つみたてNISA

つみたてNISAとは、長期・積み立て・分散投資を支援するための非課税制度です(※1)。 長期・積み立て・分散といった要素を兼ね備えた、投資信託に対する税金を優遇する制度ともいえます。

つみたてNISAはあくまで投資信託に対する税制制度であるため、つみたてNISAを理解するにはまず投資信託を知っておく必要があります。
投資信託(ファンド)とは、投資家から集めたお金を資金として、運用の専門家が投資により利益を出し、その利益を投資家に分配する制度です(※2)。

投資信託で得た利益にも当然税金は発生しますが、つみたてNISAで購入した投資信託には税金がかかりません。つみたてNISAの狙いは、非課税制度にすることで国民の投資信託へのハードルを下げて、国民の投資信託への参加を促すことです。

つみたてNISAでは、少額(100円など)から運用が始められる投資信託が対象となっています。非課税の投資枠は年間で40万円です。また非課税で運用利益を保有できる期間は、投資した年から20年間です(※3)。

つみたてNISAの対象となる投資信託は、長期・積み立て・分散投資に適した商品になるように、以下のような条件が法令で定められています(※4)。

  • 販売手数料が0円であること(ノーロードともいいます)
  • 信託報酬が低い商品であること
  • 頻繁に分配金が支払われない商品であること

つみたてNISAはあくまで投資信託であるため、元本割れのリスクは当然あります。しかし長期保有で投資先も分散されるので、一般的な投資信託と比べてリスクは低いです。

※1、3、4 出典:金融庁ホームページ つみたてNISAガイドブック
※2 出典:一般社団法人 投資信託協会ホームページ

生活費や固定費の見直しを今から始めよう

人生の3大資金は、「教育資金」「住宅資金」「老後資金」といわれ、多くの金額が必要になります。老後資金においても、若いうちからどれだけ準備できるかが重要です。

老後資金において、預貯金や年金が大事なのはいうまでもありません。ただそれだけでは不十分である可能性が高いため、今回ご紹介した財形貯蓄制度、iDeCo、つみたてNISAなども、新たな資産形成の軸として考えていく必要があるでしょう。

収入を増やすことはなかなか難しいですが、生活費である支出を減らすことは工夫次第で可能です。減らした支出分を財形貯蓄制度、iDeCo、つみたてNISAに回せば、老後の不安解消につながります。

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